第4話 美穂はだめなの

 美穂は急に、世の中で自分だけがつらい思いをしているような気がして、悲しくなってきた。


「ちっとも良くないよ!」


美穂は女の子に向かって言った。自分でもびっくりするような強い言い方になっていた。女の子は驚いたふうもなく、ゆっくりと美穂の方へ顔を向けた。日本人形のように切り揃えられた黒い髪が風に揺れている。


美穂は続けた。


「良くないよ。困っているの。

 美穂は飛びこみができないから白帽がもらえないの。

 高学年になったら赤帽は私1人になっちゃうかも知れないの」


この子はだれなんだろう、知らない子に向かって私は何を言っているんだろうと

思いながら、美穂は止まらなくなっていた。


「お姉ちゃんはきれいだし、水泳も勉強もお話も何でも上手にできるの。

 友だちもたくさんいるし。

 でも、でも美穂はだめなの」


話しているうちにどんどん悲しくなってきて、美穂はしゃくりあげた。

しゃくりあげると、のどの奥がつまってきて口はパクパクするのに声が出なくなる。こうなると母さんはいつも驚いた顔をして「ゆっくり話しなさい」と言う。母さんの

驚いた顔を見ると、気持ちがザワザワして、ますますパクパクしちゃうのに。

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