第8話 ひまわり
「こどもは親と別れて疎開って書いてあるけど、ちゃんと帰ってこられたのかな。
家が焼けちゃったら学校にも行けないよね」
そう言いながら姉がページをめくると『学童疎開』と書かれた写真があった。
風呂敷包みを抱えた十数人のこどもが並んでいる。
美穂はすいよせられるようにじっと見た。
駅も校舎も見覚えがなく、どこで撮られたものかわからないけれど片隅にひまわりが映っている。
美穂は息をのんだ。
ひまわりの大きな葉にそっと隠れるように立っているのは昼間の女の子。
日本人形のように切り揃えられた黒い髪、モンペから見える細い足。まぎれもなく
今日、校舎の裏で会ったあの女の子だった。
「お姉ちゃん、この子、私、…」
と言いかけて、美穂はプールをさぼったことを思いだして口をつぐんだ。
「この子? あぁかわいい子だね。美穂に少し似ているかも。
生きていたら、えーと、田舎のおばあちゃんぐらいかな。
そうだ、また、おばあちゃんのうちに行こうか。
おばあちゃんは美穂がかわいくてたまらないんだから」
「美穂ってかわいい?」 美穂は姉を見あげて聞いた。
「うん、かわいいよ。美穂はとてもかわいい。どうしたの?美穂」
美穂は昼間のことを話そうと思ったけれど、涙がこぼれそうになったので黙った。
「今日のプールは残念だったね。飛びこみはこわいよね。
私も美穂ぐらいのときはこわかった。いいじゃない、また次があるから」
「うん、今度はがんばる。やってみる」
美穂はやっとそれだけこたえて、もう一度、写真を見た。
ひまわりはやっぱり空に向かってキリッと顔をあげていた。
女の子は「美穂ちゃんには明日があるから」と言ったときの大人びた優しい瞳を
していた。【完】
ひまわり みその ちい @omiso-no-chii
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