第2話 お姉ちゃん

 「美穂、用意できた? 行くよ」


セーラー服を着た姉がきれいに折られたプリーツスカートをひるがえして、呼びに来た。姉が通う中学校は今日が登校日である。いつものように一緒に家を出た。角を曲がり信号を渡ると、これもいつものことだが、友だちを見つけた姉は美穂を置いて先に行く。


「美穂、飛びこみ、がんばるんだよ。思いっきりね」

「がんばれないよぉ。こわいんだから」

と言い返したとき、美穂はもう1人になっていた。


 姉の揺れているスカートの端が見えなくなると、美穂はそっと校舎の裏手にまわった。運動靴が埋もれるほどに草が伸びている。寝ころぶとむせかえるような草の匂いがした。プールから歓声が聞こえてくる。ホイッスルが鳴る。美穂はビクっと身体をふるわせた。飛びこみなんかできない。こわいし、おなかをバァーンと打って鼻に水が入ってきて、とても痛い。苦しくて泳げなくなるのに、みんなは笑う…。


お昼までここにいよう。そして帰ろう。お姉ちゃんにはやっぱり落ちちゃったって言えばいい。どうせだめなんだから。

お姉ちゃんもそう思っているかなぁ…お姉ちゃんは何でもできるから、どうして美穂はできないんだろうって思っているかもしれない。


 そばにはひまわりが真っ青な空に向かって咲いていた。

下から見あげるとひまわりは、黄緑色の大きな葉っぱに足をかけ、1歩ずつ空に向かって登っていく階段のように見えた。

 

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