閑話・黒鎧カノン
(あの子…本当にあのレーナなの?あの天上天下唯我独尊で、誰に対しても興味が無く、私の事…いや箱メンバー全員を路傍の石ころ程度しか思ってなかったあのレーナ…?)
あのときのレーナはどこか不安そうにおどおどしていた。
あんな姿は、炎上して引退する時ですら、無表情だった彼女からは想像もできない。
そしてダンジョン探索者として配信しているのもおかしい。
彼女がその才能を持っていることは知っていた。
かつてのオフコラボでは私の心を折るほど圧倒的な才能を見せつけた彼女。
だが、その時彼女は自分に確かに言ったはずだ。
『探索者なんて大嫌い』
一年前
「そういえば、カノンちゃんって探索者してるんだよね」
「えぇ…そうだけど…」
「やっぱ探索者ってなると一般の人より強いんだよね?
良かったらスタジオ借りてオフコラボでスパーリングしてみない?
そうだなータイトルは【頭領とスパーリングしてみた】でどう?」
「…わかった」
屑霧レーナには不思議な魔力があった。彼女に提案されたコラボなどは断れないのだ。実際、彼女とコラボした際の配信や動画の再生回数などは明らかに伸びがいい。
自分にとっても得…。そう判断してカノンは、レーナの提案を受けることにした。
そして当日。
カノンとレーナが、サンライブのスタジオで向かい合っていた。
カノンは、長い髪をまとめ、厳粛な表情で構えていた。カノンは手裏剣を片手に持ち、もう片方の手には刀を携えていた。
「本当に素手でいいの?」
「うん、武器なんてもった経験ないし、それなら素手の方がいいかな~あ、カノンちゃんは刀使ってね、そうじゃないと映像が映えないし」
対するレーナは、素手で構えていた。彼女の表情は落ち着いており、周りの人々からは勝利を予感させる雰囲気が漂っていた。
それはあり得ないことだった。カノンはレベル12の探索者。レーナはレベル1の一般人。
スタジオの中には、二人のスパーリングを見守るスタッフがいた。彼らはこの二人の動きを映像を視聴者に届けるために機材などを用意してくれた。
「じゃあ…いくよっ!」
そしてカノンが仕掛ける。
カノンが手裏剣を投げると、レーナは手でそれを弾き返した。カノンは驚いた表情を浮かべたが、すぐに刀を振りかざし、レーナに斬りかかった。
しかし、レーナは軽快な動きでその攻撃をかわし、素手で反撃した。鋭い蹴りやパンチを連続で繰り出し、カノンは次第に追い詰められていった。
レーナは、的確かつ素早い攻撃でカノンを圧倒していた。彼女は優雅に身をかわし、運動神経の良さを余すことなく発揮していた。
カノンは苦戦を強いられ、息も切れ始めていた。彼女は刀を収め、素手での攻撃を試みたが、レーナには太刀打ちできず、瞬く間にKOされてしまった。
レーナは、カノンを手厳しく倒したものの、常に優雅な動きで、見事な勝利をおさめた。
コメント欄では えぐい音してたww カノ虐w Bランク探索者のカノンちゃん相手にスパーリングしてボコスとかやばw レーナブレダン出たらw まぁ頭領優しいからかなり手加減してるんだろう など盛り上がっている。
「はっ…はぁ…」
疲れから息が乱れるカノン。コメント欄には
えっ カノンちゃんのあえぎ声えろすw これは切り抜きですわーなどの反応が流れている。
(ありえない…レベル1の人間の動きじゃない…)
カノンは震えていた。それは得体の知れない怪物と遭遇したときに感じるような生物としての本能的な恐怖によるものだった。
「あれれ~?ご、ごめん?大丈夫?」
レーナが、トテトテと音を立てるように可愛らしく近づいてくる。
そしてカノンの耳元でささやいた。
「そういえばカノンちゃんってとっても努力家さんなんだよねー
探索者のご両親を亡くして、妹さんを養うためにVtuberも探索者も頑張ってるんだよね~でもさ~…」
「あんまり才能ないと思うから、ご両親の二の舞になる前に…
探索者は引退した方がいいんじゃないかな?」
「…それも考えるんだけどね…まだライバーだけじゃ生活は安定しないから…それに私にとって探索者でもあることはライバーとしての売りの一つでもある…」
「ふ~ん…そっか~…」
レーナはカノンから離れた。
二人の戦いに興奮していたスタッフも落ち着きを取り戻し、カノンとレーナに汗を拭くためのタオルと清涼飲料水を渡して、声をかけた。
「いやーすごかったね!二人とも!
レーナちゃん!探索者としての才能あるんじゃない?
そうだ!二人でコンビで探索者やってみたらどう?
きっとすごい話題になると…」
「嫌です…私探索者なんて大嫌いなので」
その時のレーナの瞳からはとても深く暗い闇が感じられた。
※ブレダン ブレイキングダンジョンの略 ダンジョン探索者が一分間ガチで戦闘する格闘技コンテンツ
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