七話 そこ、試合決定で

「おい、終焉すげーのから応募来てるぞ」

「どうしたの中田君」

夜蔵終焉

国内で数少ないAランク探索者にして、

Youtuberとしても活動する超有名人である。

彼が行うダンジョン探索者が参加する、格闘技の大会ブレイキングダンジョンは2022年の日本の動画再生回数ランキングで一位を記録しており、今youtubeで最も人気のあるダンジョン探索者である。

Vtuberには興味の無い彼だったが、

この屑霧レーナの騒動はネット上でかなり炎上していたので覚えていた。

しかし、まさかその当人が自分の主催するブレダンに応募してくるとはまったく想像もしていなかったが…


自分のチームの一人で、幼馴染みでもある中田君がスマホで見せてきた応募映像を見てみると


「これは…」


銀髪に赤い瞳をした少女が、暗い室内の中で縦横無尽にシャドーボクシングをしている。彼女は身体を柔らかくしながら、空中に浮かんでいるようにステップを踏んでいる。赤い瞳が深い闇に浮かび上がり、彼女の動きが繊細に表現される。

突然、彼女は強い左フックを放つ。影の中にいる相手に向けて放たれたそのパンチは、瞬時に相手を仕留めるほどの威力を持っていた。

彼女は汗をかきながらも、次々と攻撃を繰り出した。

時には、彼女のパンチは破壊力を増し、空間を揺るがすほどの音が響く。

終わりが来ないかと思われたシャドーボクシングも、やがて彼女は息を荒げながら立ち止まった。彼女の瞳からは、充実感と喜びが溢れ出していた。彼女はカメラにに向けて微笑んだ。

それは、これまで多くのダンジョン探索者のシャドー映像を見た夜蔵終焉の中でも間違いなく最も衝撃を受けた映像だった。

夜蔵は驚いた。まず動きから感じられる圧倒的な身体能力、これは応募書類のレベルが嘘でなければ、元々のスペックが相当高いのだろう、それだけではなく熟練の探索者のように身体を見事にコントロールしている。


「どうする?」

「まぁ、間違いなく、採用決定だな…オーディションの目玉にもなるだろう。

だが相手を誰にするか…」

「それなら、ソラちゃんでどうだ?」

「ソラちゃんか…」


ソラちゃんは本名、海原ソラ。前回の第5回ブレダン大会で、レベル5でありながら、元Cランク探索者でレベル20のベテラン探索者を倒した天才ルーキー。

普通の格闘技が体重を合わせるようにダンジョン探索者同士の試合では、レベルを合わせるのが普通である。同レベル探索者はとある方法で意図的にレベルを落とすことができるので、大体当日のレベルは+-3程度であわせて行う。実際オーディションの際も「いまレベルいくつ?」などという会話はオーディション動画ではお約束である。あまりにも細かくレベルを気にする選手などは、レベルニキなどと揶揄されることもある。


そんな中、レベル15の差を覆した海原ソラはジャイアントキリングを成し遂げたルーキーとしてかなり話題になった。


また、本人が探索者をしている理由が、両親の借金3000万を返すためで、普段は宿泊費も惜しんでダンジョン近くで車中泊をして生活していたという苦労人な所も、視聴者に愛され、好感度が高い。

今は、うちのジムに住み込みで働いて貰っているのだが。

「…じゃ、ここ試合決定で」

「おい、それオーディションの時にいうやつだろ」

苦労人の天才ルーキーと恐らく日本で一番レベルに嫌われている天才悪女か…これは面白い試合になりそうだ。

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