『わたし』を見て欲しいと願うのは、造り物の『こころ』

博士が造り上げたシンシア・ヴェラ・スタイナーの模倣品、『シンシア』。
彼女はシンシアの記憶も何もかもを引き継がされ、シンシアとして博士の傍に居ます。シンシアが生前していたように、朝、起床を促すところから、食事を作り、彼の生活を支えています。

そんな『シンシア』の視点で、物語は紡がれていきます。
彼女から見た、博士のこと。
博士を愛したがゆえに、向日葵畑での死を選んだシンシアのこと。
博士が愛した、いいえ、今も愛している女性のこと――。

博士から向けられる感情に揺れ動かされる『シンシア』。
自身のアイデンティティを持つことに罪悪感のようなものを抱きながら、シンシアの全てを持って『シンシア』は博士を想うのです。

物語が進むにつれて明かされていく、博士にまつわる女性たち。
複雑な感情がそれぞれの胸で絡まっているさまに、胸が苦しくなりました。
とても丁寧に感情の揺れや苦しみが描写されており、息を詰めて見守ってしまう物語です。

しっとりとした文章で感情の機微を描いたこの物語を、ぜひ、味わってみてください。