秋桜 2章 禁忌と挑む者、想いの形

藤咲 みつき

第1話 恒例行事と禁忌の愛

第1話 恒例行事と禁忌の愛

  10月28日金曜日 午前12時55分 北高 2年A組

  午前の授業が終わり、昼食の時間、いつもの様に和也を連れ立って真也は学食か、工場にでもと思って、身の回りの整理をしてから和也の席に目を向けると、すでにそこには彼の姿はなく、慌てて出て行ったのか、教科書そのままなうえに、椅子も乱れたカタチの状態で放置されていた。

「チー、和也どうしたんだ?」

 真也の隣の席を、交渉、という名のある意味脅しで学校からふんだくった千春が、声をかけられて唸る様に答える。

「なんか凄い決意に満ちた目で、チャイムと同時にダッシュしてたけど。購買とかに伝説の焼きそばパン! てきなのでもあるの?」

 そんな、漫画の中の購買部じゃあるまいし、そんなものはこの学校には存在しない、あるとするならば、今頃自分も真っ先にその伝説とやらのご相伴に預かりたいところだと思いながら、しかし何をしに行ったのかと、首をかしげる。

 考えていても仕方がないので、購買部へ、と腰を上げたところで。

「平塚ぁ・・・お客」

「はぁ・・おう、三条さんか」

 来客を知らせるクラスメイトの意地の悪い声音を聴き、だれだぁと怪訝な顔をすれば、そこには三条 友香の姿があった。

 クラスメイトの生温かな視線と、ちょっとした含みのある言い方に納得しながらも。少しげんなりとしつつ、真也は彼女のもとに向かう。

「あ、あのぉ。ご迷惑でしたか?」

「いや、迷惑ではないんだが。まぁクラスメイトのこう、洗礼というか。それよりどうしたの?」

「あ、あのっ、ご飯。お、お弁当!」

 しどろもどろになりながら、どうにか言葉を伝える。

 断片的な言葉と、それと同時に差し出されたお弁当の包みを見て、どうやら友香が真也にお弁当を作ってきてくれた、という事がすぐに見て取れた。

 先日の、千春襲来以降も数日真也の家にお泊りをし、その間なにもなかったかというと何もなかったようで、何かはあったのだが、いまだに真也とこうして意識して互いに見つめあうように話すのは緊張をするらしく、たまに言葉に詰まっているのを、何度か経験した。

「うん、ありがとう。一緒に食べようか?」

「良いんですか?」

 真也もさすがにそれが何度も続けば、彼女の扱いにも慣れてきて、彼女が会話のしやすい方向へ話を振ってあげたり、誘導してあげる気づかいを取るようになっていた。

「シー君さぁ、なんか友香ちゃんの扱いうまくなってない?」

 そのやり取りを遠くで見ていたはずの千春が、真也の肩口まで来て、耳元で囁くようにつぶやくので、慌てて真也は飛びのいた。

「チーは黙っててくれ。で、おまえ昼は?」

「現代日本の若者の職を支える、どこにでもある24時間営業の店舗様のお弁当がここに!」

「確かに、若者の胃袋を支えはしてるが、回りくどい言い方すんな!」

 言い回しが芝居がかり、実に仰々しかったので、思わずチョップをかまし、ツッコミを入れる。

 そんなやり取り友香は面白くなかったのか、真也の制服の腕の裾をチョンとつまみぐいぐいと引っ張った。

「仲・・・うぅ」

 言いかけて、仲の良いのは幼馴染だからだと返されると分かってしまったので、その先の言葉が出てこなかったのか、さらにむくれた顔になる友香が、すかさず忌々しい問う様に千春に視線を向ける。

「あー、とりあえず、私たちの席の近く行こう」

 流石にそれには居たたまれなくなったのか、千春は話をそらしつつ、席へと誘導した。

 席につき、昼食を取り始め、20分ぐらいだろうかたったころだった。

 もはやこの学校の伝統、とも言うべき校内放送の音が流れ始めた。

 お知らせを告げる音の後、誰かが話始める。

『あ、あー。おほん、おまえらすげぇな、こんな緊張するのに良くできるなぁ。おっと失礼。数学教員渡辺だ。り、理科、理科教員の、田村先生。ほ、放課後、ぜ、是非、屋上に来てほしい!』

 突然始まった校内放送で、いつもの事だと皆特にあまり興味をもたなかったのだが、まさかの数学の渡辺が、理科の田村先生を呼び出したことに、教室中、いや学校中から歓喜の声があがる。

 校内放送が切れたのを見計らい、校内全体が震えるような声がどっと沸いた。

 正直、この件に関しては、真也もつい先月他人事ではなかったので、が、頑張ってくれと両教員に心からのエールを送りながら、自分の目の前で食事をしていた友香に視線を向けると、彼女は少し恥ずかしそうにしつつも、はにかんだ笑顔を真也に向け、真也もまた微笑み返した。

「私が居ること忘れてない?」

「ご、誤解です!」

「被害妄想はやめろ」

 千春がすかさず苦言を申す。

 そんな会話をしていた時だ、不意に再度校内放送を告げる知らせが鳴り響くも、さきほどの教師同時のイベントよりもインパクトのあるものなどない、というような雰囲気ではあったが、もしかしたら近くの人間が呼ばれるかもしれない、という気遣いから、校内のざわめきは一時おさまり、皆一斉に放送に耳を傾ける。

 こういう所は、配慮が行き届いているなぁと感心しつつ、真也たちも一様注視していた。

『あ、皆盛り上がってるところ済まないな。ありがとう気をつかぅてくれえて』

 どこかで聞き覚えのある声が、拡声器から耳に届く。

「はぁ、和也、何してんだ?」

 昼食を告げるチャイムとともに姿を消した知人が、あろう事かマイク片手に今校内放送をしている事に、何する気だあいつは、とけげんな表情になりながら、次の言葉を待つ。

『2年A組、神谷 和也です。すー、はー』

 こちらにも聞こえるほどに、一度深呼吸をする和也に、クラスメイト一同が息をのむのが見て取れた。

 それもそのはずだ、このクラスで和也はそれなりに目立つし、意外とモテる人間だ。さらに言うならば、彼が緊張をしている姿をおそらくクラスメイトは誰も見たことが無い。そんな人物が緊張の面持ちで、いったい誰を呼び出そうというのか、そのこと自体にみな興味と緊張で、空気がピンと張り詰める。

 その放送を聞いていた真也は、非常に嫌な予感をひしひしと感じていた。

 実害が自分に出ることなど、この告白伝統行事で起きるわけがないし、それが起こりうる場合は、あきらかに自分が呼び出される時だ。

『図書の司書。紅 静流さん。放課後、校庭中央にてお待ちしております』

「はぁ、アイツ。本気か!」

 クラスメイトの誰よりも早く、真也は反応してしまい、あろう事か思ってたことを口に出してしまい、クラスメイトが一斉に深夜に視線を向ける、針の筵とはまさにこの事だろうか、それどころじゃない。

 よりによって、この学園で最も触れてはならない人物の静流さん、それを告白かどうかはさておき、呼び出しともなれば、そりゃぁ驚くなというほうが難しい。

『ちなみに・・・・告白です。絶対来てください』

 真也は唖然とした。

 わざわざ宣言したぞこいつ。

 眩暈がしそうな状況だったが、真也としてはなるほどとも思った。

 静流さんならば、たとえこの放送を無視したとしても誰も咎めないだろう、しかし、最初に明言されてしまっては、イエスにしろノーにしろ、呼び出された場所に出向かなければならない。

 放送が終わり、少しの静寂の後、学校内が今まで類を見ないぐらいにどよめきたち、話題は静流さん呼び出しに全部シフトしてしまった。

「いつ、マジ何を考えて・・・」

 愚痴もそこそこに、戻ってきたら問いたださねば、と思った矢先だった。

 してやったりという顔で、英雄、もといい渦中の人間が姿を現し、クラスメイトに囲まれた。

 口々に、なぜなのかとか、いつから先生を!? だとか、禁断の教師と生徒の恋愛じゃねぇかと沸き立つ。

 そんな賑やかなさなか、再度校内放送の音楽が流れたのだが、この音を聞いた瞬間、真也は身震いをし、そして悪寒を覚えた。

 嫌な予感がすると、直感が告げていた。

『2年A組 平塚 真也・・・立ち会え。バックレたら。分かるな?』

 それだけを言うと、放送が切れた。

 声の主は明らかに静流さんで、有無を言わさぬ迫力と、拒むことを拒否する声音でそれだけを告げていた。

「せ、先輩・・・コレ」

 そう言って友香が真也にスマホの画面を見せつける、そこにはご丁寧にも「三条、必ず平塚を連れて来てくれ」の一文と、絵文字で成敗の可愛らしいスタンプが添えてあった。

 スタンプこそファンシーだが、おそらく物理的に来なきゃ成敗という事だろう。

 ふと、入り口で取り囲まれている悪友の和也に目をやれば、すまんと量の手を合わせて拝まれた。

 どうやら逃げ場はないらしい。

「シー君お人よしだよねぇ」

「お前にだけは言われたくねぇよ!」

 先月の騒動の中人人物が、非常に面白そうという笑顔を向けながら、ニマニマと微笑むので、悪態をつきつつ、放課後の事に思いをはせて、苦笑するしかなかったの

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