第4話 霊力修業 二

「第二の修行場です」

大角だいかくが言う。

ここは周りを高い木々で囲まれている。また十メートル四方の開けた場所がある。今度の場所は、その正面に、一際ひときわ、大きな木があり同じようにしめ縄がされてあった。

神籬ひもろぎ……」

葉山が優一の方に振り返る様に言う。

「え?」

優一は何を言われたのかわからなかった。

「神様よ」

「……」

「神様よ。さっきのような岩の神様を『磐座いわくら』とか『磐境いわさか』と言って、このような木の神様を『神籬ひもろぎ』というのよ」


 ここでも第一の修業場と同じように、葉山と優一は裸足になる。そして、大角だいかく鈴鏡りんきょうが声を合わせて祓詞はらえことば奏上そうじょうする。その横で葉山と優一が手を合わせてそれを聞くというものだった。

 ふと隣の葉山を見ると彼女は大角だいかく鈴鏡りんきょうと一緒に祓詞はらえことば奏上そうじょうしていた。彼女の姿を見ているうちに、優一もわからないままにも口を動かしながら祓詞はらえことばを言ってみた。

 ほんの少し、寒さが和らいだような、気がまぎれたような感覚があった。ここでの時間も同じくらいだったのだろうが、少し時間が経つのを忘れて集中していたような気がした。

 最後に神様に頭を下げる。第一の修行場より、少し修業をした感がある。


 そして、また、次の場所に向かう。『ここには一体何か所の修行場があるのだろう?』そんなことを考えながら暗い道を歩いて行く。

 四人とも無言で歩く。この無言の時間も何か精神を集中することを試されているような気がしてくる。


 どれだけ歩いただろう。その先には今までと少し異なる場所があった。まだ辺りは暗くて見えないが、明らかに今までと違う場所に来た感覚がある。

 今までの修業場は十メートル四方の空間を木々で囲まれていたり、何か閉じた空間の中にいる感覚があった。しかし、今いるところは、何か果てしなく広がるような感覚がある。風を感じる。しかも木々を抜けてくる感じではなく、遥か天空から吹き降ろしてくるような感覚。『ここは山頂に近いのだろうか?』そんな感じがした。

 ここは何にも囲まれていない。暗闇に慣れてきた目に遥か遠くの山が見える。その場所は一枚岩のような平らな岩の上にあるような感じだった。広い岩でできた修業場には小さなほこらのようなものがある。

 やはり、どうやら、ここが頂上のようだ。


「第三の修行場です」

大角だいかくが言う。

 今までと同じように裸足になり、そのほこらの前に立つ。大角だいかく鈴鏡りんきょう、葉山と一緒に祓詞はらえことば奏上そうじょうする。風の吹く音が聞こえる。今までより集中力が高くなっているのが自分でもわかった。

最後に神様に頭を下げる。


 目を開き振り返ると明るくなってきた景色に目を奪われ息をのんだ。まるで雲の上にいるような感覚だった。自分の足元の山々は霧に包まれて見えず、遠く雲の向こうに山々が浮かんで見える。

 ここは神の世界だ。人間が立ち入るところとは隔絶されている。そんな感覚に包まれた。


 今日はここで終わりだという。そのまま道を進んでいく。もとの道ではないが似たような道だった。しばらく歩くと、屋敷が見えてきた。屋敷まであと少しというところに滝があった。ここでは滝行たきぎょうをする人もいるようだ。優一が滝の方を見ていると、葉山が、

「今日はしないよ」

と言う。

「え?」

「今日はもう終わり」

「っていうか……これも、いつか、するの……」

と聞く優一に、葉山は笑顔で言う。

「滝があるんだから……するんじゃない?」

「『するんじゃない?』って、するのか……」

「するよ……滝があるんだから」

「いつ?」

「……知らない」

微笑んで屋敷の方に歩いて行く葉山。

一日目の修業は終わった。

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