黒田郡探偵事務所 第四章 霊力修業

KKモントレイユ

第1話 霊力修業の前日 葉山という人

 そのあと、しばらく葉山と霊寿れいじゅたちは懐かしい話に花が咲いていた。話の中で『六峰鬼神会(リクホウキカミノカイ)』の話題は一切でてこなかった。水鏡妃すいきょうひと葉山の会話で楊鏡妃ようきょうひの名前が出た時、この『会』の話題も出るかと思ったが、お互いに意識して口にしないのか、一切この話題が出て来ない。

 しばらく話した後、水鏡妃すいきょうひは自宅に帰ると言って席を立った。葉山と優一も霊寿れいじゅから、疲れただろうからゆっくり休むようにとうながされ部屋に帰ってきた。

「ここには修業をしている他の人もいるの?」

「たぶん、何人かいると思うよ」

「へえ……」

「その人たちと一緒に修業するの?」

「みんな別々だよ。別に何月何日から修業始めます。みたいな塾の夏期講習みたいな感じじゃないから、いろいろなところから、それぞれに人が集まってくるの。だからみんなで一斉に修業開始、みたいな感じじゃないの」

「そうなんだ」

「だから、優一君の場合は私と二人だね」

「少し安心した」

「でも、厳しいわよ」

「え、葉山ちゃんが先生?」

「まさか、それなら、わざわざ京都に来なくても、東京でいいでしょう」

「そうか」


 夕方、葉山は食事の前に、入浴したいという。ここは修業者が多く来るからか、旅館の様に風呂も男湯、女湯がそれぞれあった。結構、広く本当に旅館の様だった。

 優一が部屋に戻ったとき、葉山はまだ、帰ってきてなかった。ちょうどそこへ、ここで長く手伝いをしているらしい女性が部屋を整えに来た。


 優一は少しためらいもあったが、葉山と、ここの場所の関係を聞いてみることにした。その女性はここのことも、葉山のこともいろいろ知っていた。女性は「別に、それを話して、怒られることでもないし……」と言って教えてくれた。


彼女が言うには、こういうことらしい。

 葉山が、ここ(霊寿の屋敷)で、『どういう人』にあたるのか、ということを説明するには、まず、人間関係から説明しなければならない。

 葉山のおじいさんの妹が霊寿。つまり霊寿は葉山のお父さんの叔母おばさんにあたる。葉山は、霊寿にとって兄の孫にあたるわけだ。葉山の両親は仕事で忙しく各地を転々としていた。両親が京都で仕事をしていた時、父の叔母おばにあたる霊寿に葉山をあずかってもらっていたそうだ。

 だから、葉山は、この屋敷では『お嬢様』であり、屋敷の人たちと関係のない他人の修行者ではないのだ。

 当時、葉山は小さかったため、まだ修業などということではなく、霊寿と遊んでいる感じだったが、その時から不思議な力を見せ周りを驚かせていたという。全国各地から、ここへ修業に来るいろいろな人は、もちろんのこと、この世界で、既に『霊力』が高いと有名な人もかなわないほど、彼女の『霊力』は最高レベルに高く、今でも誰もの記憶に残っている神的存在なのだそうだ。

 また、そんな神レベルの『力』をもつ葉山は、周りの者に対して優しく接するので皆から愛されていた。屋敷の誰もが『お嬢様』と呼び、心から敬愛して、もてなすような扱いになるのは、そういう理由からだった。


 優一が「霊寿様という方と葉山ちゃんでは、どっちが『霊力』が上ですか?」と聞くと、急に表情を厳しくして、

「霊寿様と比べてはいけません」

と言った。

優一は口にしてはいけないことだと悟った。

部屋を整え終わった、その女性は優しい表情で、

「優一さん、葉山お嬢様は神のレベルの『霊力』を持つ方です。そして、霊寿様は……神です」

微笑む女性……


ちょうど、そこへ葉山が帰ってきた。

「あ、深雪みゆきさん。お部屋を整えてくれていたんですか? ありがとう」

「いえ、いえ、お食事をお持ちしますね」

 葉山は、ここで長く手伝いや料理を作ってくれている人たちの名前をみんな知っているようだ。初めての人には挨拶し名前を聞く、そして、何か声をかけるときは誰に対しても、必ず名前を呼び、いつも感謝の言葉を添える。


 食事は和食の豪華な料理が出てきた。普通に有名な旅館で出てくるような夕食に二人は修業のことも忘れて旅行気分で食事をした。こういうとき葉山は『気持ちを切り替えることができる』というのだろうか、これはこれで心から楽しみ、修業は修業で厳しく……と線を引くことができるようだ。

 食事のあとまた数人の者が部屋を整えに来た。葉山は丁寧にお礼を言った。優一も葉山を見ているうちに、周りの人に感謝の気持ちを伝える習慣がついてきた。


「明日は早いから少し早めに寝ようね」

と言いながら、スマホのアラームをセットする葉山。

「明日は何時なの?」

「三時」

「そんなに早いの?」

「そうだよ。四時にはここを出るから……」

「どこへ?」

「裏の山……」

「……」

「まあ、普通の一般的な修業とは違うから……」

優一は改めて修業に来ているのだと実感した。

「緊張してる?」


「大丈夫、大丈夫。アラームかけてるから……」

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