第2話 始まる霊力修業

 京都の朝は寒い……なんていうものではない。今は二月だ。そして、朝の三時、しかも、これから外に出て行くというのだ。部屋の中はまだ暖かいが、外は極寒であるのが容易に想像できる。優一にとっては経験したことのない寒さだった『外に出るだけでもう十分修業です。これ以上ムリですぅ』という感じだ。

 葉山は素早く修業衣に着替えた。そして、自分の家から持ってきた木の箱のようなものの中から、何かを大事そうに別の皮の袋に入れ替え肩から掛けるようにした。


 前の日に葉山に聞かされていた。葉山や香保子が何かと戦うとき、あるいは結界のようなものを張るとき、何か呪文のような言葉を口にしていると思っていた。

 しかし、これについては別にアニメや映画で登場人物が言うような特別な呪文があるわけではなく、また、ロールプレイングゲームのキャラクターが使う呪文のようなものもないという。何か密教などのお経や、神主の祓詞はらえことばを言っているわけでもない。

 彼女たちは、精神を集中して『私を守ってください』とか『この者を守ってください』とか『悪しきものよ立ち去れ』などと言っているのだと言う。精神を集中して念じ、その場の『空気』を浄化させるのだと言う。

 手で不思議な形を作ったあと、指を手刀しゅとうの様にしてくうを切る作法は一般的な九字切くじぎりというものと、霊寿が切り開いた作法をあわせたもので、これもその場の『空気』と自分自身の『気』をコントロールしているのだという。

 この修行で大事なことは『精神を集中させること』を身につけることだと葉山は言う。それは邪念や心の中の他の思い、迷いなどを一瞬にして消し去り、全神経を一点に集中させる。自分の『心』を雑念や煩悩と切り離し、自由にコントロールできるようにすることだと言う。

 『無』の感覚を身に付け、自然の満ち溢れる『力』を味方につけ自由にコントロールすること……葉山もここで更に『霊力』を高めるのだという。


 聞いているだけでは、やはり、空想世界のことのようにも聞こえるが、二月の朝の三時に起きて修業に行くという現実を前にすると、『空想』や『ただのパフォーマンス』で終わられては困る。できたらアニメの登場人物が使うような魔法が使えるようになりたいものだ。

いや、そうでなければ、これから向かう修業は割に合わない気がする。

 それでも、葉山に笑顔で「大丈夫だよ」と言われると着いて行ってしまう優一だった。


 朝の四時、当たり前だが、この季節の、この時間は真っ暗だ。一応、外灯のようなものがあり、歩いて行く道や修業をする場所は明るいそうだ。

 屋敷の裏門に行くと山伏やまぶしのような出で立ちの男性と、巫女みこのような出で立ちの女性が迎えに来てくれていた。山伏のような男性は大角だいかく巫女みこのような女性は鈴鏡りんきょうというらしい。年は二人とも三十代くらいに見える。葉山と優一にお辞儀をした。葉山も深々とお辞儀をし、

「今日はよろしくお願いします」

と言う。優一も同じようにした。厳しそうだった大角だいかく鈴鏡りんきょうは少し微笑み、

「寒いでしょう。頑張ってくださいね」

大角だいかくが言う。

「私たちは案内をするだけになります。お二人の姿を見守らせて頂きます」

鈴鏡りんきょうも言葉を添える。


 この屋敷の裏門はそのまま裏の山につながっており、そこから山を巡るように、いくつかの修業をする場があるという。

 

 修業の内容は葉山と同じだという。それに少し安心した……が彼女はその世界の人も認める神レベルということを忘れていた。

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