第7話 霊力修業終了 龍霊水晶剣

 修業の日数は七日間だった。明日はいよいよ最終日だ。葉山が「する」と言っていた『滝行』がある。

 優一は、ここに来て、空いた時間や、毎晩寝る前に、葉山が『はらい』の時にする『九字切くじぎり』の作法を一緒にするようにしていた。そして、前の晩、もう一度、『滝行』の時の作法を確認した。基本的に彼女がするのと同じようにしたらいいと言われた。

 そのなかで、『滝行』に入る前に『九字切くじぎり』をするということだったが、『九字切くじぎり』に関しては手元でするので覚えておいた方がいいということで毎晩一緒にしてきた。

 さすがに一週間も続けているので、これも一人でできるようになっていた。


 その日も朝三時に起床。朝の四時に修業場に行く。第一修行場から第二修行場、第三修行場と今まで通りだった。しかし今日はその後『滝行』がある。


 ここまで修業を続けてきて、一日の流れなど習慣的な部分は慣れてきた。しかし今日までやってきても、この『寒さ』にはまだ抵抗があった。

 優一は大角だいかくさんや鈴鏡りんきょうさんとも話しやすくなった。二人ともいろいろなことを教えてくれる。はらええの言葉もほとんど奏上そうじょうできるようになった。


 鈴鏡りんきょうはこんなことも説明してくれた。鈴鏡りんきょうは初めての修業の日、葉山が優一に、

「『樹木』の神様を『神籬ひもろぎ』。『岩』の神様を『磐座いわくら』、あるいは『磐境いわさか』という」

と教えていたのを覚えていた。

 その話の続きで、他にも『山』そのものが神様となる場合は『神奈備かんなび』といい、『人』が神様になる場合は『依坐よりまし』という……そんなことを教えてくれた。


 大角はこんなことを教えてくれた。この世の中には『四つの秘宝』があると聞く。他にもあるのかわからないが、と前置きして、

『四つの秘宝』とは、一つは『剣』、一つは『盾』これは『鏡』ともいうらしい、一つは『勾玉まがたま』もう一つは何かわからないという。

 『三種の神器』といわれる『八咫鏡やたのかがみ』、『天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』(『草薙剣くさなぎのつるぎ』)、『八尺瓊勾玉やさかにのまがたま』は皇位のしるしとして有名だが、この『霊力』の世界には『四つ秘宝』があり、『四つの秘宝』にも『剣』、『鏡』、『勾玉まがたま』がある。『剣』は邪悪なものを滅する秘宝、『鏡』は邪悪なものから身を守る秘宝、『勾玉まがたま』は霊力を高め邪悪なものを浄化する秘宝だという。


 第三の修業場を終え空が明るくなってくる。遠くに見える山々を見る。この景色も今日で一旦見納めだ。そして、最終修業場に向かう。

 滝の高さは、それほど高くないと思っていたが、いざ『滝行』となり、普段より近くで見ると、結構な高さだと思った。滝の近くはしぶきが飛んできて今までの気温より更に低く感じた。凍るような寒さだ。


 葉山が大角だいかくに言う。

大角だいかくさん、『滝行』の時、優一君に『もの』を持たせてもいいですか」

「『もの』といいますと?」

「神聖な『もの』です」

「水圧がかなりありますので、あまり『もの』は持たない方がよろしいかと思いますが……しかし、葉山さんがいうのであれば、落とさないように気を付けてくださいね……」

ここで葉山がずっと持っていた皮の袋から中のものを取り出した。


大角だいかく鈴鏡りんきょうが二人して声を出した。

「!……それは……」

「それは!」


 それはガラスのようなものでできた『剣』だった。しかし、どうやら、ただのガラスではないようだった。

 剣の全長が三十センチくらい、刀身とうしんの部分が二十センチくらいだろうか。剣を持つの部分から刀身まで、すべてがガラスのようなものでできている。


「『龍霊水晶剣りゅうのみたますいしょうのつるぎ』というのよ」

葉山が言う。

「こんなものが……お手元にあったのですか?」

大角だいかくが驚いて言う。

「実物を見れると思っていませんでした『龍霊水晶剣りゅうのみたますいしょうのつるぎ』……」

鈴鏡りんきょうも驚いて見る。


『何だ……みんなの驚きは……この剣は一体何なんだろう……』優一は何が皆を驚かせているのか、わからなかった。


「これを優一君に授けます。きっと、あなたを守ってくれるでしょう」

葉山から手渡されて改めて間近で見た。

『?』ガラスより遥かに透き通って見える。『水晶』は間近で手に取って見たことはないが、これが『水晶』なのか……

「これは『水晶』でできているの?思ったより重い感じ……なんていうか見た目より重い感じがする……」

「本物の『水晶』でできているのです」

大角が言った。

「本物の『水晶』……」

「そうです。『龍霊水晶剣りゅうのみたますいしょうのつるぎ』……先程言った。秘宝の一つです。龍の魂が宿るといわれている秘宝です……それを持って滝に入ってください。滝の中で落としたりしないよう、しっかり持っていてくださいね」


 滝に入る前に、大角だいかく鈴鏡りんきょうが、一際ひときわ大きい声ではらえの言葉を奏上そうじょうした。

九字くじの印を結びます」

優一は皮の袋の上に剣を置き、九字くじの印を結んだ。


そして、優一は剣を持ち直し、いよいよ葉山と二人で滝に入っていく。

冷たい……体に打ちつける水が重く痛い。


大角だいかく鈴鏡りんきょうが、はらえの言葉を奏上そうじょうしているのが聞こえる。


葉山と優一も滝の中で奏上そうじょうする。


水が重く痛い……しかし、冷たさをあまり感じなくなっていた。剣をしっかり持つ。


 優一は夢のような、幻のようなものを見た気がした。空が雲に覆われている。その雲の隙間すきまから天の光が降り注ぐ。雲の間をすり抜けるように龍が舞い降りてきた。そして、その龍は、優一の周りを回ったかと思うと、手に持っている剣のなかに吸い込まれるように入っていった。

剣が何かに共鳴するような震えを感じる。

水晶が発する不思議な波長が優一の身体の中にある何かと共鳴するような感覚。

優一の手の中で剣がまばゆいばかりの不思議な光を発した。


思わず大角だいかく鈴鏡りんきょうも、優一の隣にいた葉山も驚いた。

「これは……」

優一は声が出ない。


何が起こったかわからなかった。


滝行が終わり、滝から出た。


いつの間にか霊寿れいじゅもその場に来ていた。

霊寿れいじゅが静かに言う。


「『龍霊水晶剣りゅうのみたますいしょうのつるぎ』……その剣が、あなたを正統な所有者と認めたようですね。神様に認められたのです」

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