第十章 その4


「アマゾネスの代表って誰?」


 フォクシーが戦車から降ると呼びかけた。

 すると先頭の【ゴランド】で車長をしていたメス猪が降りてきた。


「ウチだけど、何の用?」

「あんた名前は?」

「ボーア・サス・スクローファ」

「あたしは、フォクシー・ボォルピス・ミクラ。申し送りするよ」

「え!? 申し送りって何?」

「仕事の引き継ぎだっつーの。あんたそんなことも知らんで代表やってるの?」

「あ、いや、知ってる……けどさ」


 メス猪の自信なさげな態度から嘘の匂いが漂った。

 フォクシーが知っていて当然の常識のように言うから、馬鹿にされると思って虚勢を張っているだけなのだ。

 だがそれでも良い。

 それでフォクシーの言葉に耳を貸すならば、仕事にとっかる前に申し送りを受けたり事前の情報収集をしたりするのが当たり前だと思い込んでくれるならそれで良いのだ。


「うわ、見なよ。うちら以外にも女の子だけの戦車傭兵っていたんだ!」


 ボーアの後ろにいメス達が珍しそうにミミやカッフェのことを見ていた。

 フォクシーが、メス猪に地図を開いて見せる。


「何、これ?」

「地図だけど……まさかあんた」


 馬鹿野郎にも程があるが、このメス猪は地図の用意すらしていない。


「いや、カンダハレルからクラップフの道なら何度も何度も通ってるし! 土地勘もあって詳しく知ってるから!」

「煩い! ぐだぐだ言ってないで、こいつを描き写せ!」


 フォクシーは紙と鉛筆を突きつけた。


「いい? 移動する度に警戒方向がどんどん変わるから! 生き残りたかったら今から言うことをしっかりその頭に叩き込むんだ。いいね!」


 そしてカンダハレルからクラップフだけでなく、この周辺についてこれまでの往路で得られた情報――盗賊の現れそうな地域や、戦闘時に役に立つ地形、戦車を走らせる上で注意すべき路面状況などを、フォクシーは事細かに伝えていった。



 戦車傭兵のアマゾネス・カンパニーとカンダハレルの農民達からなるコンボイを見送ったフォクシーは、いつもとは違う疲労感に襲われていた。


「きっつうー」

「ご苦労様なのです」

「アイカワラズのオセッカイ」


 カッフェに返す言葉もなかった。


「この疲労感は美味しいものを食べないと解消されないよね」

「お腹がすいたのです」

「野外炊事食ニモ飽キタ」


 クラップフは不毛地帯と、穀倉地域の境目辺りに位置する。

 山脈やら大河の流れの関係上、この双方を往来しようとすると、どうしてもこの地域を通過しないといけないという場所だ。

 そのため機械製品を荷台に山積みにした中・小規模のキャラバンや、農作物を積載したコンボイが始終通過する交易都市として栄えていた。

 当然、様々な食材も各地から集まるので食文化も豊かだ。

 仕事から解放されてスケジュールと資金面に余裕がある今、食文化の豊かさを楽しむのに何の遠慮が必要か。


「たまには料理店で食事しない?」

「賛成なのです。けど、私あまり詳しくないのです」

「そうイウ時ハ、一番イイ店を探セバ良イ」

「よし、クラップフで一番美味い料理のお店に行こう!」


 フォクシー達は街一番の料理店を探すことにした。



 いろいろな人から話を聞くとクラップフの名物はキノコ料理なのだとか。

 採れたキノコを天日で乾燥させ、再び水で戻すと生で食するよりもはるかに美味い。

 このキノコを鳩肉と共に油で炒めると味わい深く口の中でじわっとうま味が広がる。歯ごたえはプリプリとしていてのどごしはつるん。まさに最高の珍味なのだとか。

 もちろん誰が料理してもそうなるわけではない。

 良い食材と一流の料理人がいる店でなければ折角の材料も台無しになる。

 しかし料理店カーベンはその意味での心配は全くない。なにしろクラップフで一番の評判を誇る店だからだ。

 この店は高級宿屋も兼ねた所謂オーベルジュであり客層も中・上流ばかり。

 当然ながらお代の方も一流でドレスコードも喧しい。

 しかし今のフォクシー達には怖れるものは何もない。

 キノコ料理を注文し大皿に山のように積み上げてもらった三人は、会話を交わすことなくわっさわっさと食べていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐と戦車と黄金と 傭兵少女は赤字から逃げ出したい! 柳内たくみ/MF文庫J編集部 @mfbunkoj

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ