さぁ、願いを言え。どんな願い事も10分の1だけ叶えてやろう!
NOみそ(漫画家志望の成れの果て)
さぁ、願いを言え。どんな願い事も10分の1だけ叶えてやろう!
「さぁ、願いを言え。
どんな願い事も10分の1だけ叶えてやろう!」
「……はい?」
空に浮かぶ
♦ ♦ ♦
魔王を倒す旅の途中、偶然見つけた古代の遺跡。
何か有用なアイテムでもあれば、と内部を盗掘……、
もとい、探索していて見つけた魔法陣。
それが転移の魔法陣と気づいた時にはもう遅く、
勇者達パーティーははるか天空へと続く塔へと飛ばされてしまった。
そして上に向かうその道に立ちふさがるは、
強大な魔物でも荘厳なる神の使いでもなく……、
総段数100万を超える頂上までの階段だった……。
だが、行くしかない。
外への出口はどこにもなく、
おまけに水も食料も最低限しかないのだ。
干上がる前に頂上にたどり着かなくては……。
「ぜぇ~っ、ぜぇ~っ……」
ひたすら上り続ける勇者達。
海をも両断する伝説の剣も、
千の魔物をほふり去る強大な魔法も、
この場では一滴の水の価値もない。
会話も愚痴も既に尽き果て、
手足の感覚はおろか、もはや思考まで失いかけたその時、
ようやく頂上と思われる外の光が段の先より差し込んできた。
それを見て正気を取り戻し、ゾーンに入る勇者達。
眠っていた力を振り絞り、頂上までの道を駆け上がる。
そして……、そこに待ち受けていたのが、
今目の前に浮かぶ
その巨大な姿を見た瞬間、
驚愕と疲労の限界により仲間達は失神してしまった。
1人残された勇者に、神龍は言った。
「よくぞ来た、人間よ。
ここまで来られたのはお前でちょうど100人目だ」
「は、はぁ……」
(結構いるのね……)
「その100人目記念としてお前に褒美をやろう。
光栄に思うがよい」
「え?
あ、ありがとうございます……」
と、てっきりこの神龍と戦う事になると身構えていた勇者だけに、
安堵と共に思わず口から礼の言葉が出てしまった。
しかもだ。
何か色々とツッコみたいところはあるが、
褒美をもらえると言われて嬉しくないはずがない。
(何だろう褒美って?
ひょっとしてエッ〇な本かな……)
そんな妄想たくましくする勇者に神龍は言った。
「さぁ、願いを言え。
どんな願い事も10分の1だけ叶えてやろう!」
その言葉に勇者はきょとんとしてしまった。
(10…分の1……?)
……とは、どういう事か?
例えば金貨100枚という願いなら、
10枚もらえるという事だろうか……?
100万段の疲労もあって、思考がまとまらない。
とりあえず、ここは勇者らしく、
話を聞いて情報を集めなければ……。
「あの…、いくつか質問をしても?」
「おお、構わんぞ」
「えっと…、例えばですね……」
話しながら何を聞くかを考える勇者。
「例えばその……、
その願いが『魔王を倒してほしい』…とかだったら、
どうなるんでしょう……?」
「魔王を倒して、か。
フム……」
神龍は少し首をかしげてから言った。
「願いがどのように叶うかは倒す相手次第なので、
正確に答えることは出来ぬが……。
そうだな……、
そやつがお前達人間と同じ形態の者ならば、
ぎっくり腰や知覚過敏等を引き起こし、
その力を半減させる事になるだろう」
「……はい?」
「もしくは、
そやつの体臭を家来どもが近寄れないほど深刻化させ、
魔王としての立場を失墜させる、などであろうか」
「……」
「あるいは単純に、
魔王の足をすべらせて倒すという事も考えられるのう」
(トンチかよ!
うちの僧侶じゃあるまいし……)
と、側で失神している屁理屈好きな仲間を見ながら、
勇者は思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
この願いは駄目だ、と判断し次にいく。
「では、
『強力な武器が欲しい』という願いならどうですか?」
「おお、それなら簡単だ!」
という神龍の言葉に、勇者は期待を募らせた。
が……
「ここまで来る階段の途中で、
お前の仲間が武器を投げ捨てたろう?」
「え?
あ、はい」
それはおそらく、
大の字になってノビている戦士の事だ。
拷問にも等しい終わりの見えない階段上りの中、
疲労と苛立ちの限界が来たのか、
「こんな重いもの持ってられるか!」と、
背中に背負っていたグレートアクスを放り捨ててしまったのだ。
破壊力だけなら勇者の聖剣と並ぶ逸品である。
「あれをここまで転移させてやろう。
お前達自らまた取りに行くのはさすがに無理があろう?」
「……いや、結構です」
勇者はその願いも取りやめた。
何だろう……。
段々と気持ちが冷めてきている……。
「では、武器ではなく
『強力な魔法を覚えたい』という願いは?」
「ふむ……。
逆に問うが人間よ、
お前にとって『強力な魔法』とはどういうものかな?」
「え?
それはその……、
あらゆる敵を消し去る攻撃魔法とか、
自分の力を何倍にもはね上げる付与魔法とか……」
「だが、それらにも弱点はあろう?
どんな魔法も敵の対策によっては、
通じない事もあったろう?」
「た、確かに……」
と、何故か色っぽいポーズで気絶している、
仲間の魔法使いを見ながら、
勇者はこれまでの戦いを思い返してみた。
炎の効かない敵、
凍らない敵、
あらゆる攻撃魔法をはね返す敵、
付与魔法を打ち消す敵……等々。
(破られた事がない魔法は、一つもない……)
その事実に気づいた勇者に対し、
神龍は結論を下した。
「つまり、
この世で最も強力な魔法とは、
『誰にでも通用する魔法』という事だ」
「なるほど……」
と、勇者もしぶしぶ同意した。
神龍は続ける。
「この魔法は神界にて創られた、
この世の魔法とは全く法則性の異なるものだ。
故に、この世の誰にも破る事はできぬ」
あれ?
これは期待できるんじゃないか……?
「それで、その魔法というのは……」
「『相手の寝相を悪くする魔法』だ」
「……」
「たとえ『誰にでも通用する魔法』を相手にかけても、
その発動中に効果に対処されては意味がない。
だが、どんな生物も眠っている時は無防備となる。
これはかけた相手が眠った時発動する、
いわゆる時限式の魔法だ」
「……『相手の寝相を悪くする効果』が?」
「『相手の寝相を悪くする効果』がだ」
「それ……、相手に何のダメージがあるわけ?」
勇者はもはや敬語を使う事をやめた。
「
あれはなかなか厄介なものだ。
首を痛めて回せなくなったり、
肩を痛めて服を脱げなくなったり、
羽を痛めて飛べなくなったりと……」
「……まあね」
人間に羽があるか!と、ツッコむ気すら起きなかった。
それにしても……。
「……あのさ、ちょっと疑問に思ったんだけれど……」
「うむ、何だ?」
「どれもこれも、叶え方の質が低すぎない?
願いの10分の1にしてもショボすぎるような……」
「はっはっは!それはそうだ。
我は確かに願いの10分の1を叶えるが、
実際にお前が受け取れるのはさらにその1部だけなのだからな」
「え?それ、どういう事?」
「例えばだ。
とある国の農民が、一年で100の収穫を得たとする。
この時、農民は100の全てを自分のものにできるか?」
「え、できないの?」
「阿呆。
お前は税というものを知らんのか?」
「あ……」
そういえば、そんなものがあったっけ。
勇者の特権というべきか、
故郷の国では家族ぐるみで税収を免除され、
15の成人になるまではひたすら剣と魔法の修行に明け暮れ、
それ以降は魔物や魔王を倒すために世界中を旅しているため、
税についての知識を得る機会などなかったのである。
旅の途中で得た戦利品や宝は、すべて自分達のものにできたし……
「え~と……、つまりあんたへの願い事にもその税がかかる、
だから叶える内容がしょぼくなっていると?」
「うむ」
「あんたが税を取るの?」
「
何じゃそりゃ……。
「ちなみに、税というものは富める者ほどより多く納める義務がある。
願いが大きければ大きいほど、引かれる税率も上がるというわけだ」
「はぁ……」
神龍の説明に、その手の知識に乏しい勇者は生返事をするしかなかった。
(商人なら、この手の話に詳しいんだろうな~……)
と、かつてパーティーの一員だった仲間の事を思い出す。
旅の途中で、とある
最後に会った時には、夢を叶え立派な町長となっていた同胞……。
(今頃どうしているのかな、あいつ……)
などとよそ事を考える勇者。
「ちなみに、その……
「出来ぬ」
「ですよね~……」
相手は世界ですもんね~……。
その後も勇者は、ダメ元で色々な願いを確認してみた。
『世界の平和』、
『魔王の元へワープ』、
『レベルアップ』、
『カジノのコイン838868枚』等々……。
だが、どれも望む結果には至らない事が分かった。
(結局、勇者の使命は自分自身の力で果たさなければいけないって事か……)
そうだ……、母さんが言っていた。
死んだ父さんも、道具や神の力なんかに頼らず、
最後まで自分自身の力で魔物達から人々を守り続けたって……。
皆の英雄だった父さん……。
その父さんを失って、母さんはどれだけ悲しかったろう。
にもかかわらず、
勇者の記憶の中で、母はいつも笑顔だった。
勇者の前で、母はいつも笑ってくれていた。
(父さんはもういない。
でも母さんは……。)
勇者は神龍に向かって言った。
「願い事が決まりました」
「ほう……、どういう風に叶えられるか確認しなくても良いのか?」
「はい。これ以上の願いはないので」
「そうか……」
と、神龍も理解したようだった。
「では願いを言え。
どんな願い事も10分の1だけ叶えてやろう!」
「ぼくの願いは、」
勇者は神龍の目を見ながら言った。
「母の、母さんの幸せです……!」
♦ ♦ ♦
その後、幾多の困難と試練の末に、
勇者達は魔王を倒し、世界の平和を取り戻した。
ここではない異世界の支配者であった魔王は、
次元の壁を破り勇者達の世界へ魔物達を送り込み、
さらなる侵略を企てたのだ。
勇者達はその魔王が開けた次元の穴を逆に利用し、
異世界へと進軍。
違う世界の住人とはいえ、
やはりそこに住む人間達は人類の希望である勇者を応援。
打倒魔王の悲願を勇者達に託したのだ。
そして遂に、魔王の居城へ乗り込んだ勇者達は、
迫りくる魔物達を突破し魔王の元へ。
永遠とも感じる死闘の末、
勇者の渾身の一撃によって魔王は倒された。
同時に、魔王の力で開かれていた次元の穴も閉ざされた。
これにより、勇者のいた世界と異世界は完全に切り離されたのだ。
崩壊した魔王の居城を背に、
朝日を見つめる勇者達。
「もう……、元の世界には戻れないんだな」
と、戦士。
「ええ……」
と、僧侶が答える。
「……」
勇者は何も言わない。
「やっぱり、悲しい?」
と、尋ねる魔法使い。
誰もが無言になる。
だが、
「……でも、」
しばらくして勇者は言った。
「皆がいるから……、
それでいいや」
母さん、どうか元気で。
幸せに……。
♦ ♦ ♦
「魔物がいなくなった……。
あやつが魔王を倒したのかのう」
「ええ、きっとあの子が……」
そこは、勇者のいた世界。
勇者の故郷、勇者の暮らしていた家である。
会話をしているのは、この家の住人である勇者の父方の祖父、
そして勇者の母親だ。
二人がいるのは同じ部屋の同じベッドの中、
そして服を着ていないのも同じだった。
「しかし、どうするかのう?
あやつが帰って来たら、何と説明すればよいのか。
その……、わしらの事を……」
「そうですねぇ……。
出来ればあの子はあの子で、
どこかで自分の生活を始めてくれているとありがたいのですけれど」
Fin
_________________________________
最後までご覧頂き、ありがとうございました!
※勇者達の性別はご妄想にお任せします。
さぁ、願いを言え。どんな願い事も10分の1だけ叶えてやろう! NOみそ(漫画家志望の成れの果て) @botsunikomi
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