No.9《苦悩》

なまざかな

新学期

いつからだろうか。朝起きるたび、何かに心を躍らせる気分になる。家の玄関から一歩踏みだすとき、あの人に今日も会えるんじゃないか、と思う。自転車から歩く君の背中を見たとき、どこか少し安心してしまう。

夏の終わり、そう新しい学期が始まり通学時間が少し変わった日。あの日からどの電車に乗ろうか模索していた。幸い、始発駅だったから混み合う電車を避けて毎朝座ることができた。当時、この電車に決めたのは、ただ同じクラスの友達に挨拶を交わすためだけだった。

朝の通学の駅のホームはものすごく混んでいる。特に都心に向かう電車は長蛇の列ができる。埼玉方面からの電車に乗る人々、ゆったりとできる始発電車を待って少し早くから並ぶ人々。学生やサラリーマンは勿論、老人や身体に何らかの不自由を持った人など様々な人々が集まる。その中にいつものあの子がいる。僕は名前も歳も知らない。知っているのは、僕の通っている高校のすぐ近くの高校って事だけだった。朝の電車に乗る人はいつも大体決まっている。眼鏡かけたおばさんに、小太りのギャル、オタク気質な若いサラリーマンに清潔感のあるイケオジがいる。他にもタイ人のサラリーマンがいたりして、奥さんらしき人と話している声が聞こえることもある。この並んでいる列の後ろの方にあの子がいる。あの子は隣に人が座るのが嫌なのだろうか、いつも席に座らずにドア沿いの壁へと寄りかかる。そして、僕は毎日空いている席へ腰を下ろす。このような状態が3ヶ月ほど続いていた。

その間で進展など一切なかった。ただただ毎朝顔を合わせ、電車に乗り、それぞれの学校に行くだけの日々が続いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

No.9《苦悩》 なまざかな @namazakana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ