最終話 最後の戦い

 魔王は声を上げ、右手を前に出す。


 何かを仕掛けてくる。魔法が発動次第、直ぐに対処をしなければ。


『こいつを食らえ! ギガアイスランス!』


 魔法が魔法を発動すると、空気中の水分を集めて巨大な水を作り、槍の形を形成する。その後水に限定して気温が下がったようで、水は氷へと変化した。


『こいつで体をバラバラにしてやる! うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 雄叫びを上げながら、魔王は巨大な氷の塊を投げ付けてきた。


 今避けてしまえば、あの氷は城下町の門にぶち当たる。門は鉄で出来ているので破壊される心配はないかもしれないが、何かしらの異常が起きて門が開かないと言うことになれば、城の兵士たちが来ることができなくなる。


「そうはさせるか! デスフェニックス!」


 魔力を込めて炎を生み出すと、鳥の形を形成する。炎の鳥は巨大な氷に突っ込み、接触すると水蒸気へと変えた。


 辺り一帯に水蒸気が舞い、視界がぼやける。


『バカな! 我のギガアイスランスが打ち消されるだと! 普通なら、臆して反撃に出られないはずなのに!』


 魔王が驚きの声を上げる。


 確かにギガアイスランスを使える人物は少ない。だけど俺は、フェアリードラゴンの姿だったときのメリュジーナ戦で一度目撃している。


 経験がある以上、怯むことはない。


 だけど、今の魔王の声はどこから聞こえてきた? 真正面からではなかったな。


「ウインド!」


 風を生み出して気圧に変化を与え、水蒸気を吹き飛ばす。辺りの光景がはっきりと見えるようになると、目の前には魔王の姿が居なくなっていた。


 いったいどこに?


『引っかかったな! 我の攻撃が防がれることは予想していた! 今の驚きの声は、お前を油断させるための演技だ!』


 上空から声が聞こえ、顔を上げる。すると、上空には背中から翼の生えた魔王が居た。


 あいつ、飛行能力まであるのか。


『上空にいる我の方が位置的にも有利、こいつで止めだ! デスボール!』


 再び魔王が右手を上げて人差し指を伸ばすと、巨大な火球が現れる。


 だが、その光景を見た瞬間、口角を上げずには居られなかった。


 まさか魔王が飛行能力を持っていたとは驚きだ。だげど、やつが上空に移動してくれたお陰で、俺の策を実行することができる。


 やつの近くには、1回目のデスボールを封じ込めたライトウォールがまだ残っている。


 球体の中あった火球は酸素を燃やし尽くして自然消滅をしているが、それは準備ができたと言うサインだ。


 ついでに予備として、あっちの火球も封じ込めさせてもらうとしよう。


「ライトウォール!」


 魔法を発動してやつのデスボールを球体内部に封じ込める。すると、外部との酸素の供給が絶たれた火球は、だんだん小さくなっていく。


『しまった! やつには俺のデスボールを封じる手段があったんだ!』


 全く、敵に攻撃の手段を提供してくれるとか。本当にバカだな。


 さぁ、始めるとするか。


「上空に移動してくれてありがとう。お陰でお前を吹き飛ばす工程を省くことができた。トラップ発動!」


『なんだと!』


 敵のデスボールを封じ込めていたライトウォールを消す。その瞬間、上空に大爆発が発生して巻き込まれた魔王が地面に倒れた。


 直撃を受けたようで、魔王の肉体は火傷を負っており、皮膚がボロボロだった。


『い……いったい何が起きた?』


「お前のデスボールを利用させてもらったんだ。どうして爆発が起きたのかと言うと、密閉された空間の中で、炎が酸素を消費し切れば炎は消える。だけど、完全には燃焼し切れていないんだ。球体の中は、一酸化炭素ガスが溜まっている状態になる。そんな中、空気に触れてしまうと熱せられた一酸化炭素に、酸素が急速に取り込まれて結びつく。それにより、二酸化炭素への化学反応が急激に進んで爆発を引き起こした。これがバッグドラフトと呼ばれる現象だ」


 魔王に何が起きたのかを説明すると、やつの口が僅かに動く。


 回復魔法を使おうとしているのかもしれない。そうはさせるか。


「セルデュプリケートミス!」


『メガヒール! さぁ、これで完全回復だ! いくらお前が瀕死の重傷を負わせても、完全回復させれば……ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! なぜだ! どうして回復したのにも関わらず、体が痛くなる!』


 回復魔法を発動して起き上がった魔王であったが、直ぐに痛みを感じて悶えだす。


「悪いな。魔法でお前の体に細工をさせてもらった。回復魔法を使えば、自分の肉体を傷付けるだけだぞ」


『があああああああぁぁぁぁぁ! 我の体に何をした! テオ!』


「肉体の回復というのは、細胞が細胞分裂を繰り返し、体内から分泌される物質を使って修復される。だから、俺はお前に細胞のコピーミスを促す魔法をかけた」


『細胞のコピーミスだと!』


「ああ、回復魔法により、強制的に細胞が分裂する際にコピーミスが起きれば、正常な肉体にならないからな。そうなれば、残った細胞が身体を維持するために、間違った細胞を攻撃する。その結果過剰な免疫反応が起こり、身体が痛みを覚えると言うわけだ。もう、お前は終わりだ。回復をしても、しなくとも、お前は死を待つだけの存在となる」


 結末は死しか残されていないことを告げると、魔王は目を大きく見開く。


「そんなに顔を歪めてとても苦しいだろう? 俺が回復魔法を使って上げるよ」


『く、来るな! 来るんじゃない! 頼む! 助けてくれないか!』


「ハルトも同じことをしたか? しなかっただろう? なら、答えは決まっている。ネイチャーヒーリング!」


『がああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!』


 回復魔法を発動すると、魔王は断末魔の声を上げる。本来癒す魔法に体を蝕まれていくのは、皮肉なものだ。


 苦しんむ表情をしたまま、魔王は動くことはなかった。


 軽く手を触れてみると、そのまま地面に倒れる。


 どうやら死んだようだな。このままこの肉体を放置したら、また何者かに悪用されるかもしれない。


「ファイヤーボール」


 魔王の肉塊に火球を放ち、死体を燃やす。


「さて、ルナさんとメリュジーナと合流しますか」






 魔王との戦いから数年が経った。


 俺は母さんの後を継ぎ、次期国王となるために王子として色々と学んでいる。


「ふぅ、今日はこの変にして休憩をするか」


「パパ!」


「お父様!」


 部屋の扉が開かれ、2人の娘が入ってきた。


「どうした? 何かあったのか?」


「ママが呼んでいるよ!」


「お母様が探していたよ」


 母親が呼んでいると娘が言い、俺は困ってしまう。


「パパはわたしのママのところに先に行くの!」


「お父様は私のお母様のところに先に行くのよ!」


 2人の娘はお互いに睨み合い、互いの肩を掴む。


 はは、また始まったか。この2人は本当に仲がいいな。


「分かった。分かった。どうせあいつらのことだ。多分あそこで俺が来るのを待っているだろう」


 2人の娘を抱き上げ、俺は部屋から出て行く。


 俺が王子から国王になったときには、責任を持って、この国の平和を守っていかなければならない。


 娘たちが明るく元気で暮らせていける、そんな未来を築き上げていこう。


 終わり











最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回の話しでこの物語は完結しました。


最後の話しまで読んでくださった貴方は、私にとって神様のような人です。


貴方が居てくれて本当に良かったと心から思います。


長い間、本当にありがとうございます。


全ての読者の皆様へ、作者からのお願いですが、宜しければ完結記念のご祝儀として、まだ評価をしていない方が居られましたら、評価をしていただけたら助かります。


何卒よろしくお願いします。

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全裸追放から始まる成り上がり生活!〜育ててくれた貴族パーティーから追放されたので、前世の記憶を使ってイージーモードの生活を送ります〜 仁徳 @zinntoku02

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