第十九話 魔王の第二形態
~テオ視点~
俺の攻撃を食い、吹き飛ばされて吐血までする魔王の姿に、困惑してしまった。
あまりにも弱すぎないか? これがハルトと戦ったあの魔王なのか?
前世の記憶での戦いでは、もっと白熱したものを感じていた。それなのに今戦っているこの魔王は弱すぎる。
俺が成長してハルトを超えたとも考えられるが、それにしても力に差がありすぎる。
何かを隠しているのか? もしかしたら今戦っている魔王は偽物ということも考えられるよな。
偽物と戦わせて俺の体力を消耗させたところで、本物が奇襲してくる可能性も充分に考えられる。
様々なパターンを考えていると、吹き飛ばされた魔王が立ち上がる。彼は体がボロボロになっているが、それでも不敵な笑みを浮かべていた。
やつのあの笑いは、何かを企んでいそうだな。何が起きても直ぐに対処ができるようにしておかないと。
『お遊びは終わりだ。我の本当の力を見せ付けてくれる』
身構え直していると、魔王が声を上げる。
本当の力を見せると言うことは、今までは本気ではなかったってことか。つまり、今戦っている魔王は本物説が濃厚となってくる。
魔王の言葉を聞いて心の中で呟くと、ある疑問が浮上してきた。
でも、イルムガルドの肉体で魔王の力を制御することができるのか?
最悪の場合、魔王の力に耐えられなくなり、身を滅ぼすことにもなりかねないはず。
頭の中で考えていると、イルムガルドの肉体に変化が起きた。
頭髪が勢いよく伸び、顔も中性的容姿へと代わった。逞しい肉体から少し華奢になったものの、すらりとした手足からは力強さを感じる。
完全にイルムガルドの原形をとどめていない。
『さぁ、完全体となったこの体で、今度こそお前を倒す』
声までもイルムガルドではなくなっていた。低い声が少し高くなり、男性とも女性とも取れるような声になっていた。容姿が中性になっていることと関係があるかもしれない。
「魔王、その体はいったいどうしたんだ?」
『これか? この肉体は人間であったからな。弱い肉体から強い肉体を得るために、メイデスの細胞を移植したんだ。完全に魔族の体にするのに時間がかかったが、どうにか間に合ったようだ。完全な肉体へと代わった我は、先程のような無様な戦いをしないからな』
「メイデスの細胞を移植しただと!」
魔王の説明を聞き、どうして肉体が変化したのか、その理由に納得する。
なるほど、カオスの研究を利用したのか。
移植した細胞は女性の魔族、だから中世的な容姿となり、髪まで伸びたのか。
肉体の変化で、やつの攻撃力や防御力なども、先程とは桁違いになっていると考えた方が良い。
ここは、相手の出方を見て、情報を得た方が良いな。おそらくやつは、新たな肉体を得て調子に乗っている。自分から仕掛けてくるはずだ。なら、今は回避に徹して情報を得るべきだ。
『お前から仕掛けて来ないのなら、俺の方が動いてやる』
脳内で作戦を考えていると、予想通りに魔王が地を蹴って接近してきた。
まだエンハンスドボディーによる肉体強化の効力は残っている。さて、どんな攻撃をしてくるのか。
敵の行動を見極めようとすると、やつは頭を素早く横に振る。すると長い髪の毛が俺の顔面に当たり、視界を防がれてしまう。
髪を目眩しに使いやがった!
今まで経験したことのない戦闘スタイルに驚いていると、腹部を蹴られて後方に吹き飛ぶ。
だが、地面に激突をする前に受け身を取った。そして立ち上がって蹴られた箇所に手を置く。
肉体強化のお陰で、ほぼノーダメージ。魔法の効果が持続している限りは、接近戦でのダメージを受けることはないか。
『チッ、ヘッチャラと言いたげな顔で立ち上がりやがって。なら、これなんかどうだ! デスボール!』
魔王が右手を上げて人差し指を伸ばすと、空中に巨大な火球が現れる。
遠くに離れたこの場でも伝わる程の熱量だ。直撃すれば、この辺一帯を燃やし尽くしそうだな。
あんなものを放たれてしまえば、城下町も無事では済まない。ここはあの魔法を封じさせてもらうとするか。
「ライトウォール!」
空気中の光子を集めて気温を下げることにより、相転移を起こさせる。そして光子にヒッグス粒子を纏わりつかせることで、光に質量が生まれ、触れることのできる光の球体を生み出した。
光の球体は巨大な火球を包み込み、内部に封じ込める。
『我のデスボールを封じ込めたか。だが、そんなもの直ぐに突破してくれる……な、なんだと! 我の火球が縮んでいく!』
上空を見上げる魔王が驚きの声を上げる。
そう、俺がライトウォールを使ったのは、ただ単に内部に封じ込めることだけに使った訳ではない。このライトウォールは、条件が揃うと敵の炎魔法の威力を下げることができる。
密閉された空間の中で、炎が酸素を消費し切れば炎は消える。この原理を利用して、時間をかければどんなに強力な炎魔法でも、威力を下げることができるのだ。
だけど、本当はこれだけでは終わらない。あの魔法にはまだ伏兵が潜んでいる。
それを成功させれば、いくら魔王でも軽傷では済まないはずだ。
『くそう。我の魔法を
声を上げ、魔王は右手を前に出す。
また何かを仕掛けてくるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます