第十八話 どうして我がここまで追い込まれている。

 ~魔王視点~




 パペットーズとメイデスが離れ、この場には我とハルトの生まれ変わりであるテオのみが残った。


 互いに睨み合ったまま、一歩たりとも動こうとしない。


 さすがハルトの生まれ変わりだけあって、隙がないな。だが、どちらかが動かなければ、このまま時間が過ぎて行くだけ。


 やつはいったい何を考えている? 我を焦らし、我慢の限界を超えて攻撃に転じた時に、カウンターを狙っているのか?


 テオの思考を読もうとしても、やつの考えていることは分からない。だが、仮に我の考えている通りの展開になれば、テオの攻撃を受けずに倒すこともできるはず。


 まずはこちらから仕掛けるとするか。


『睨めっこも飽きてきたな。では、そろそろ始めるとするか』


 足に力を込め、地を蹴ってテオに接近する。そして目の前に立つと、やつの顔面に拳を叩き込む。


 だが、テオは後方に跳躍して一撃を躱した。その光景を目の当りにすると、思わず口角を上げる。


 やはり我の予想通りだ。やつはハルトの生まれ変わりであり、ハルトだった頃の記憶を有している。なら、前回戦った時と同じ行動をすれば、記憶が蘇って反射的に同じ行動を取ると思っていた。


 500年前と同じ展開だ。ハルトはこの後、俺の腕を掴んで投げ飛ばす。やつが反射的に同じ行動を取る可能性が高い以上、我はそれを逆手に取らせてもらう。


 拳を掴まれる前に身を屈め、テオに足払いをかける。我の足はやつに当たり、転倒させることに成功した。


 このまま一気に終わらせる!


 仰向けとなったテオに覆いかぶさり、やつの腹部に拳を叩き込む。その瞬間、血が噴き出た……我の拳から。


 いったああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!


『メ、メガヒール!』


 拳にダメージを受け、我慢できない痛みに耐えながらも最上級の回復魔法を使う。


 ハァー、ハァー、ハァー、ハァー。メ、メチャクチャ痛かった。思わず泣きそうな程に。だが、魔王であると言うプライドがどうにかまさり、涙を流すことを我慢した。


 これはいったいどう言うことだ。どうして攻撃をした我が自滅をする。


 思考を巡らせていると、ハルトが使っていた肉体強化の魔法を思い出す。


『エンハンスドボディーか』


「そうだ。お前が攻撃を仕掛ける前に、この魔法を使って肉体を強化した。エンハンスドボディーには、2つの効果がある」


 ニヤリと口角を上げながら、テオは魔法の効果を話し始める。


「攻撃に使えば、瞬間的に神経による運動制御の抑制を外し、自分の筋肉の限界に近い力を発揮させることができる。そして防御に使えば体内の水分を利用し、攻撃を受けた際に生じる慣性力と粘性力によって、元の位置に留まろうとする力が働くのを利用し、一時的に体内の水分が硬化することで、肉体に強度を与えることができる。今の俺は、攻撃を受けるとコンクリート並みの硬さになる」


 コンクリートと言うものがどんなものなのか分からないが、我の拳が破壊されるほど硬いと言うことは理解した。


 一度立ち上がって後方に跳躍すると、再び身構える。


 まだ完全に魔族の肉体に代わっていないのだろうか? そう言えば、どのくらいの時間が必要なのかも聞かずに、テオのところに来てしまったな。


 もし、完全になるまでまだ時間を要するのであれば、我は間違った選択をしてしまったかもしれない。もしかしたら、中途半端な形でまた倒されてしまうかもしれない。


 一瞬だけ弱気になるも、首を左右に振って思い浮かんだことを否定する。


 心で負けてしまってどうする。我は魔王だぞ。魔王が二度も人間に負けては魔王の恥だ。


 冷静に考えよう。やつが肉体強化でインファイトでのダメージを受けない体になっている以上、遠距離での魔法で倒すしか方法がない。


 まずは追い詰められていることをテオに気付かれないように、魔王らしく余裕の態度でいなければ。


『ハハハ! さすがはハルトの生まれ変わりだ。こうでなければ面白くない。だが、お遊びはこのくらいに――』


 言葉を連ねている途中に、いきなりテオは距離を詰めてきた。


 魔王が喋っている時には、最後まで話しを聞くと言うマナーを知らないのか!


『おのれ! 我が喋っているときに攻撃を仕掛けてくるとは! それでもハルトの生まれ変わりか! ファイヤーボール!』


「戦闘中に喋っている方が悪いだろう。隙だらけだったから攻撃に転じさせてもらっただけだ! サンドストーム!」


 魔力を練り込む時間がなく、下級の魔法を放つ。するとテオは土の魔法を発動して我の火球を砂で覆う。


「そんなバカな! いくら時間がなかったとはいえ、我の火球を掻き消すだと!」


「ファイヤーボールと言っても所詮は火の塊だ。炎が燃焼し続けるには、酸素の供給が必要だ。常に砂に覆われたことで、空気に触れることなく温度を下げて燃え尽きるのを待てば、炎は消えてなくなる」


 テオの言っていることは何ひとつ理解できないが、水以外の魔法で我の火球を消すなど、信じられない。


 我は悪い夢でも見ているのか。


「魔王と言っても所詮はこの程度だったか。評価を改める必要があるな。それじゃあ、こいつで終わらせるとするか」


 テオが更に距離を詰め、拳を放つ。やつの拳は我の腹部に当たり、耐え難い激痛を感じながら後方に吹き飛ばされる。


『ゴハッ!』


 気分が悪くなり、口から血を吐き出す。


 くそう。時期早々であったか。我のこの肉体が完全に魔族の肉体になっていたのなら、勝負は代わっていただろう。


 これが人間の肉体の限界か。脆い、脆すぎる。


 悔しい感情が渦巻き、テオへの苛立ちと憎しみが湧き上がってくる。そんな時、我の肉体に少し変化が起きていることに気付く。


 これは、もしかして。


 口角を上げ、立ち上がるとテオを睨み付ける。


『お遊びは終わりだ。我の本当の力を見せ付けてくれる』

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