終章ー灰になるまでー
観測器から、影の反応が一つ消える。
残った、一つの反応を見て、アイビーは意を決した。
「……白銀の灰動機を影と断定。対敵行動に移ります」
スロットルレバーを握り、横のスイッチに手をかけ、白銀の灰動機にスコープの照準を合わせる。
その距離、凡そ三キロメートル。
撃鉄を起こす音と共に、銃身から射出された弾が、白銀の灰動機に命中し、爆煙を巻き起こした。
「そんな……」
確かに、弾は命中した。
その筈なのに、何故、あの灰動機は、無傷のままこちらに突っ込んで来ているのか。
動揺を感じながらも、冷静に状況を判断する。
ーあの炎で弾頭が蒸発した…?
高速で射出された弾を蒸発させる程の炎となると、その熱量は相当なものだろう。
「動力管とライフルを接続。動力の三割をライフルへ装填」
機体の動力が、ライフルへと流れ始める。
出力をあげれば、あの炎の壁を貫ける筈だ。
スイッチを押し込み、再度、弾を射出する。
先程よりも大きい発砲音と共に射出された弾が、接近してくる白銀の灰動機に命中した。
爆煙と共に、相手のコックピットハッチが吹き飛ぶ。
ー出力を上げてもこの程度なの!?
灰動機が、眼前に迫る。
アイビーは、咄嗟にスロットルレバーを引き倒し、機体を横に旋回させた。
白い炎が目の前を掠め、ハッチが僅かに融解する。
ヘデラと白銀の灰動機がすれ違う瞬間、融解したハッチの隙間から、アイビーは、一人の少女と目が合った。
灰色の髪に、燃え盛る琥珀色の瞳をした彼女は、白銀の灰動機と同じく、白い炎に焼かれながら、その眼から涙を流していた。
「待って!!!」
少女に向かって、アイビーが声を上げる。
しかし、その声は届く事もなく、少女を乗せた白銀の灰動機は、そのまま彼方へと駆けて行った。
濃煙の中消えていったその灰動機を、視認する事はもう出来ない。
「……………」
ハッチを開け、コックピットから外に出る。
煙が晴れ、視界が開ける。
そこにはもう何も無く、ただ、虚しい灰色の世界が広がっているだけだった。
灰になるまで 木瓜 @moka5296
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