最終話・筋肉はいつもひとつ

真夜中で、嵐が吹いている。学校の裏にある崖で、太腕ノ助は一人で考え事をしている。走馬灯の様に、彼の目の前で色んな絵が流れていく。

「ブルーベリー」

「人気投票」

「被害者の名前の書いてあるダンベル」

真実の糸を辿るべく駆け回ったが、気がついたらその糸にがんじがらめにされていた。

太腕ノ助「もう自信がねぇ。一体だれが殺ったんだ!?俺には解けるのだろうか・・・無理か。俺は所詮、ただの脳筋だったのか。脳までが筋肉になってやがる!くそったれ!脳筋!脳筋!クソ脳筋!」

太腕ノ助は月に向かって叫ぶ。その時、幻覚か、月に顔が浮かぶ。亡くなった曾祖父さんの顔だ。そして、あろうことか、月から彼に話かける。


腹割衛門「太腕ノ助。迷いを捨てたまえ」

太腕ノ助「シックスパック爺!もう無理なんだよ!俺はただの脳筋だ!」

腹割衛門「脳筋上等。答えは常に一つなり。筋肉あらば鍛えるべし」


月が普通に戻り、嵐も晴れる。太腕ノ助は運命に授かった己の目的を理解し、脳トレを始める。脳スクワット、脳ダンベルプレス、脳懸垂まで。終わった頃にはもう夜が明けている。


太腕ノ助「ありがとう、爺さん。これで全て分かったよ」


(数時間後、教室にて)


太腕ノ助「さて、皆さん。なんでお前らをここに集めさせたか、分かるよな?」

筋次郎「ああ。決着の時間だな」

ツヨ子「え?決着って?」

立伏刑事「犯人が分かったって事だろう?」

細男「これはこれは。見くびっていた様だな」

肉梨奈「すごいね。良くわかったわね」

筋次郎「ちょっとまって。なんで姉ちゃんが居るんだ?」

骨太田先生「あー、俺が霊界から呼び戻したんだ。実は副業で陰陽師やっててな」

細男「お言葉ですが、それなら最初から呼び戻して犯人が誰だったのかを聞けばよかったのでは」

骨太田先生「先生に意見を言う気か、はぁ?順序って物があるんだよ」

細男「失礼致しました」

太腕ノ助「察している通り、この事件の真相がやっと明らかになった。まあ、簡単じゃなかったがな。簡単どころか茨の道だったぜ。クソ茨のクソ道な。なんせ、疑わしいメンツしか居ないようなもんでね」

立伏刑事「さっさと聞かせてくれ。犯人は誰だ?」

太腕ノ助「いきなり結論から教えても困惑するだけさ。順を追って説明してやろう。まず、あのダンベルだ。見てからにみみっちい物だった。この学校であんな代物を使うやつは恐らく一人しかいないと誰だって思っていたはず」


細男は咳払いをする。


太腕ノ助「そう。お前だ。もちろん俺だって疑った。しかし証拠としては足りない。だって、動機が見えなかったから。そこで筋次郎に学校のチャットルームに入ってもらって、探りを入れさせた。出てきたのが、肉梨奈ちゃんに何らかの恨みを持っている『ブルーベリー大好き人間』という輩だ。悩まされたんだぜ、あれに。しかし偶然が重なり、その名前に隠されていた手掛かりを見つけた。ブルーベリーと言えば視力回復の効果がある。この学校で視力に問題があるやつと言えば・・・」


細男は更に咳払いをする。


太腕ノ助「そう。まさにお前だ。あの時点で、俺の中では犯人は九分九厘お前で決まりだった。は!とんだ見当違いだったぜ。後でチャットルームの事をよく調べたが、やたらと長いニックネームの痛いやつ居ただろう?」


細男は咳き込んでむせる。


太腕ノ助「落ち着け。そいつの正体がお前なのは分かっている。しかし、ブルーベリー大好き人間がチャットルームに登場した日、お前もそこにいた。暗闇の建築だが何だがってニックネームでね。よって、ブルーベリー大好き人間はお前ではない。あの時チャットルームに居たのはブルーベリー野郎と、お前と、後先生だと思われるやつだ。だから先生も無罪で決まり。生徒に向かった発言に問題有りだとは思うが」


骨太田先生も咳き込んでむせる。


太腕ノ助「そして、次の日だ。あろうことか、ツヨタンに・・・」


太腕ノ助は自分の発言に気まずさを覚え、咳き込んでむせる。


太腕ノ助「失礼。にもしかしたら動機がある事が分かった。学校の人気投票で決まって一位を取っていた肉梨奈が消えたら、やっと一位になれるからだ。ちょっと、その、なんというか、個人的な問題もあって、実はこの間筋次郎と一緒にツヨ子さんを尾行していたのだが・・・」


ツヨ子「尾行!?オーマイガー!」


太腕ノ助「まあまあ。とにかく。学校から帰ろうとした瞬間、貴女は誰かに電話をかけた。そしたら学校中の明かりが消え、貴女もどこかへ消えてしまった。それを不審に思うのもしゃあねぇだろ?だから電話の会社に問い合わせて、貴女の番号からの発信を確認させていただいた」


ツヨ子「そもそもなんであたしの番号知ってるの!?」


太腕ノ助「まあまあ。とにかく。確認してみれば、あの時あなたはFBIに電話をかけたらしい。気になっていたので、FBIで働いてる俺のダチに聞いてみた。どうも、ドラゴン星からの宇宙人に一年前から狙われているあなたはずっとFBIに守っていただいているそうだな。最近だと通学もFBIの最新技術による瞬間移動で送ってもらってると。逆に言うと、24時間FBIに監視されている状態で殺人等犯せまい。よって、貴女も無罪だ」


ツヨ子「当たり前だもん!」


太腕ノ助「その後はもう一つ、妙な真実を知ってしまったんだ。犯行に使われた武器には持ち主の名前がマジックで書いてあった。これを見逃した警察も大概だと思うが」


立伏刑事は咳き込んでむせる。


太腕ノ助「最初は謎だった。あの逞しい少女からダンベルを盗める者はどこを探しても居ないだろ。なのに、彼女を殺したのは間違いなくあの同じダンベル。そこで通りすがりの犬が現れて、知恵を貸してくれた。自殺ではないか、とね。それだったら辻褄が合うだろう。被害者にはアリバイがないんで。でも違和感があった。何かおかしいと。これは決して自殺をする理由が彼女になかったはずだとか、そんな話じゃない。彼女の事は何も知らないし、ぶっちゃけどうでもいい。違和感があったのは彼女の名前。良く見たら、ダンベルにはこう書いてあった」


太腕ノ助はチョークを手に取り、黒板に文字をかく。

『出貝 肉里奈』


太腕ノ助「しかしそれはおかしい。だって、彼女の名前はこう書くから」


先程書いた文字の下に、太腕ノ助は更に文字を書く。

『出貝 肉里奈』

『出貝 肉梨奈』


太腕ノ助「優等生だとまで言われていたやつが、自分の名前の漢字を書き間違えると思う?俺はそう思わん。訳が分からなかった。どの線を追っても行き止まりだったが・・・ちょうど昨夜、月に現れた曾祖父さんの霊の励みによって、やっと理解した。行き止まりと思っていたこの複数の手掛かりには繋がりがある。ある特定の人物が中心となる繋がりがね」


太腕ノ助の話を聞いている人達から驚きの声が入り混じってあがる。

「なんてことだ!」

「オーマイガー!」

「お腹すいたな!」

「正に驚天動地!」

「まさか・・・!」


太腕ノ助「そう。筋次郎、お前だ」


筋次郎は一咳もせず黙り込む。


太腕ノ助「最初に細男に疑いをかけたのはお前だ。そして、動機を与えるようにブルーベリー大好き人間という名前で姉ちゃんの悪口をチャットルームで流した上で、俺がチャットルームで情報を探すように仕向けた。まんまと騙されたぜ。それに飽き足らず、俺にツヨ子さんにも動機がある事を教えた上で尾行するように勧めた。彼女がFBI通学しているのを知っていたからだ。なぜ知っていたかって?簡単さ。俺が彼女との接近を怖がっていた時に、」


ツヨ子「接近?接近ってどういう事なの?」


太腕ノ助「まあまあ。とにかく。そういう時、勇気を出して接近しろと言ったのは筋次郎だった。そうすれば我が獲物が先に取られるかもしれないと恐れたエイリアン・ドラゴンが襲来し、FBIが彼女をもっと強く守るようになり、更に秘密めいた彼女の行動が俺の目に怪しく映るようになる。良く考えたもんだ。お前の計画には脱僧帽さ。しかしお前の策略はまだ終わっていなかった。自殺だと吹き込んだ犬の事を考えたら、そういやセント・バーナードだったんだって気づいた。そしたら明らかになった。筋次郎、お前はセント・バーナードを飼っていたな。『犬種に戦闘がついているのに全然戦ってくれない』という相談を以前俺にしたのを思い出したよ。きっと自分の犬に、俺に間違った知恵を入れるように命令しただろ。漢字を間違える事くらいは、お前ならありえるだろ。自分で頭が悪いと言っているしね。もう、これだけ揃ってるぜ。言い訳する気か?」


筋次郎「いや・・・完全に参ったぜ。全てお前の推理通りだ。もういい、認める。俺がお姉ちゃんを殺したんだ」


教室が静まり返る。骨太田先生は震えている。ツヨ子は涙目になっている。立伏刑事は口をポカンと開き、吸っていた葉巻が床に落ちてしまう。


太腕ノ助「一つだけ教えてくれ・・・何故だ?何故自分の姉を殺したんだ!?」


筋次郎「俺は見ていられなかったんだよ。よそから見たら、彼女は輝かしい人気者で優等生だっただろ。勉強、人間関係、筋トレ・・・何をしても完璧に出来ていたんだ。しかしそれは飽くまでも表の顔だったんだよ。彼女は苦しんでたのさ。常に一位じゃないといけないあのプレッシャーは強烈で、寝る時間も惜しまず勉強や筋トレに励んでいて・・・でもそれでも足りなかった。もっとだ、更にもっとだ、と喚いていたんだぞ。弟の俺には分かる。彼女は怖がっていた。完璧じゃなくなったら嫌われるという恐怖に取り憑かれていた。それでついに違法なアナボリック・ステロイドにまで手を出してしまって・・・もう俺の知っているアネキじゃなくなってた。苦しみの毎日を送っていたジャンキーになっていたんだ。俺がやった事は犯罪かもしれない。いや、間違いなく犯罪だろ。対抗するつもりはねえから、逮捕でもなんでもしてくれ。でも、後悔は一切してねぇ。こんな生き地獄から彼女を救うのは俺の責任だったんだ」


肉梨奈「きっしょw」


〜完〜

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