第4話・汗臭い濡れ衣
骨太田先生「穏便に頼みますよ、刑事さん。相手は子供です」
骨太田先生「分かりました。では、こちらに呼びますので少々お待ちください」
骨太田先生は教室を出る。数分後、一人の子供がのそのそとドアを開けて入る。刑事と二人きりだ。
立伏刑事「さて、君が細男くんだね?」
細男「う、うん」
立「ちょっと訊きたい事がある。いいかい?」
細「い、いいよ」
立「最近亡くなった肉梨奈ちゃんだけど、知っているよね?」
細「知ってる・・・」
立「友達だったのか?」
細「えーと、なんかこう・・・」
立「なんだ?あれか?へへへ。ガールフレンドってやつか?」
細男は視線を伏せてポケットに手を突っ込む。眼鏡を取り出して、かける。レンズ越しに刑事を見つめながら再度喋り始める。
細「僕と肉ちゃんの関係をそんな安っぽい言葉で汚してもらっては困ります。彼女は僕にとってインスピレーションの源であり、つまらない日々を彩る天使・・・否、女神と言っても過言ではなかろう。あの華麗なる美貌といい、雅やかな振る舞いといい、ましてやあの凛とした佇まいに・・・そう、惚れてしまったんだ。しかし僕が彼女に寄せていた好意は君ごときには到底理解も及ばない高貴かつ純潔なものであった。繋がれた二人の心には交際のようなケチな取り決めなど必要ない。どうしても我々の絆に名をつけたいのならば、愛と呼び給え」
立伏刑事は手帳にメモを取り終えると、吸っていたタバコの灰が落ちそうになっている事に気づく。灰皿に落とそうと慌てる彼の手には汗が滲んでいる。細男はもう一度ポケットに手を突っ込んでは眼鏡を取り出して、かける。
立「・・・良く分かったぜ。彼女の死は結構ショックだったんだろ」
細「言うまでもない」
立「俺は・・・俺ら警察は、犯人を突き止めたいんだ。その上で確認しないといけない事がある。悪く捉えないでくれ・・・昨日の朝、君は学校に15分位遅刻したようだ。殺人を犯すのには十分すぎる時間だ。その15分の間に何があったかを説明してくれ」
細男は鼻で笑い、ポケットから優雅に取り出した眼鏡をかける。
細「僕を疑っているという解釈でよろしいですか?」
立「申し訳ない。大事な人を失った君の気持ちも分かるが・・・」
細「情けをかけて善人ぶろうとしているのか?笑止千万もいいところだ。なんで遅刻したかって?登校中にウミガメを見つけたのさ。せっかくだったからいじめてやろうと思って、最適ないじめ方を吟味している内に時間を忘れてしまってな。信じないのであればそのウミガメにでも確認を取るが良い」
立「ウミガメだと!?ここは海から200キロ離れているんだぞ!」
細「ふん。だから何だというんだ?名前にウミがついているから海にしか居ないと思っているのか?逆に聞かせていただくが、空に行かないとそら豆は食べれない訳なのか?」
立(ちっ・・・理屈ではこいつに勝てっこない・・・俺を遥かに超えてやがる!)
細「失礼しましたね、刑事さん。完璧なアリバイがあるのです、僕には。それはもとより、肉ちゃんを殺す動機等どこにあろう?」
細男は胸ポケットから眼鏡を取り出して、クールにかける。立伏刑事は静かに手帳をしまい、立ち上がる。教室を去ろうとするが、ドアをくぐった直後に一回だけ振り返り細男の方を見る。
立「良く覚えておけ、君。俺のこの太い腕は伊達じゃない。犯人は逃さねえ」
教室に一人だけ残されていた細男は拳を握り締め、静かに涙を流す。顔にかけていた大量の眼鏡が次々床に落ちて割れてゆく。
細「なんたる屈辱・・・愛していた人を失っただけでなく、身も蓋もない疑いを掛けられるなんて。残酷だ。残酷すぎる。でもあの刑事は頼れない。犯人を見つけるなら自分で探すしかない。ああ、見てろ。必ずその怨念を晴らしてあげよう!僕の愛しい肉梨奈よ!!!」
(同時、霊界にて)
肉梨奈「きっしょw」
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