雨の復讐屋

@Yorube4

第1話

 「は....どうして.........?」

 スーツを着たその男は腹に血をにじませながらその場に倒れた。雨は一層強くなっている。男の発する声は言葉として形を成してはおらず、ついには最後の言葉に耳を傾ける人もここにはいない。いるのはフードをかぶった男と、すでにこと切れたスーツ姿の遺体である。

 フードの男は手慣れた手つきで血に濡れたナイフを再び遺体の背中に突き刺し、おもむろに携帯電話を取り出した。それから数分もたたないうちに遺体は袋に詰められ、わずかに残った血痕も雨に流され消えてしまった。



スーツの男は行方不明扱い。近々、近所の人間でさえそれを忘れる。結局人間の価値はそれっぽっちのものなのだろうか。

フードの男はしばらくその場を動こうとはしなかった。

 



「…おはようございます。リーダー。」

重たそうな瞼をこすりながら僕はそういった。

「あぁ、おはよう。アオ......といってももう昼の2時だがな。早速だが昨日の殺しについて詳しく聞かせてくれ。記憶がまだ鮮明なうちにな。」


彼女は復讐屋 兼小説家。名は霧崎という。僕が彼女の下で働き始めたのは数年前のことだ。仕事内容はその名の通り”復讐”。僕らが依頼主に要求するのは正義でも多額の金でもない。”ストーリー”である。

先ほども言ったように、霧崎さんは小説家だ。いや、厳密に言うとゴーストライターなのか。まあとにかく、恐ろしいほどの文才を持ち合わせていながら想像力の乏しい彼女は常にネタを探し求めている。彼女の書く物語はいつも殺人、復讐ばかり。想像でいないのなら現実にそれを持ってくればいいなどというぶっ飛んだ発想がこの復讐屋の原点である。

そのため僕ら復讐屋の目的は金や正義ではない。”ストーリー”なのだ。たとえ依頼者がうそのストーリーを作り上げて僕らに依頼してきたとしても、ストーリーが面白ければ僕らはそれを喜んで引き受ける。


復讐に正義など必要ないのだ。


「次の依頼なんだが、依頼者本人から直接聞いた方が良いだろう。もうすぐここにつくそうだ。電話口で聞く限りだと兄への復讐。小さいころからの性的暴力で精神を............」


”ガチャッ”とドアノブをひねる音が聞こえた。

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