第4話 キジバト荘になる

 祖母レナは賭博場事件から数年、この邸宅で働き続けました。雇い主さんには息子夫婦がいましたが、結核で療養所に立て続けに入ってしまっていたからです。よちよち歩きのお嬢さんが残されたので、世話をするためにレナがやってきたのです。それから間もなくの主の突然の死でした。そういった事情から、ある程度家が落ち着くまでレナはお屋敷を離れなかったのです。


 賭博場の存在を知っていたのに、何もできなかったという自責の念もありました。

 賭博場は規模も小さく、雇い主さんも執行猶予が付いたかもしれません。お金持ちが図に乗ってしまったとはいえ、凶悪犯ではないのですから。 

 雇い主さんもそれは分かっていたはずですが、人生に幕を引いてしまったのです。


 

 お嬢さんがある程度大きくなり、息子さん夫婦も無事家に戻ってからレナは子守りをやめて結婚しました。結婚相手、それはいなせに浴衣を着こなしていた青年……賭博場で見た彼が結婚相手です。彼は若き実業家だったのです。私の祖父となる彼は賭博そのものは殆どせず、見物だけをしていることが多かったので警察からのお咎めは軽く済んだのだそうです。


「人柄が良さそうだから結婚を決めたんだけど、私もあの賭博場の間接的な関係者になりたかったのかもしれない」

 祖母はそう言っていました。色ガラスを使った古い小窓の向こうに翻る花札、それが美しく見えてしまったときに、祖母の運命は決まってしまったのかもしれません。


 その後、嫁ぎ先を奥さんとして切り盛りしてるうちに、かつての仕事先、キジバト御殿が売りに出されているのがレナの耳に入りました。

 

 レナはまたあのお屋敷に住みたいと願いました。夫も同じでしたので買い取ったというわけです。商売人ですから、商業利用しようとは決めていたそうです。そこで、宿泊施設になりました。名前は正式にはキジバト荘にして。

 

 以上がキジバト荘の成り立ちです。庭は祖母の雇い主さんが元気だった時とあまり変わっていないそうですよ。ニオイバンマツリも絶やさないようにしてますから。今ではすっかりキジバト荘の夏のシンボルです。


 キジバト荘には他にも面白い特徴があるんですよ。運が良ければ出会えるかもしれません。こちら私の名刺。ここの三代目候補で、青野幾都と言います。

 現在はまだ修行中の身ですが。


 ニオイバンマツリ、綺麗でしょう。日差しが和らいでくる時間帯になったら庭をお散歩なさったらいかがです?昔と変わらない紫がかった月夜などは最高ですよ。


 レナの雇い主さんはある程度歳をとってから、ニオイバンマツリを育て始めたようです。

 

 若いうちからニオイバンマツリと親しんでいたら、危険の裏の美しいものに免疫ができたのかもしれません。ですから、お若い今のうちから、ニオイバンマツリと触れ合ってみてください。

                              

                                   終

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キジバト荘の特徴紹介 肥後妙子 @higotaeko

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