TELL ME

『親ガチャ失敗の深沼湖文です』


 担任もクラスメイトもドン引きで黙らせた一言。

 入学式の朝から親ガチャSSRお嬢様につっかかられてムカついていたから出てしまった言葉。


 しかもそいつが同じクラスって最悪やろがい!


『先程の自己紹介、まさか本気ですか!?』


 更に彼女からツッコまれる始末。

 全くもって、最悪な入学式だったぜ。






 ――再び5月26日。





 まず向かったのは大きい森林公園の定番散歩コースと、そこに併設されたカフェで休憩することだった。

 僕らは平日でもそこそこ観光客で賑わう森林公園を歩きながら、前回から空いてしまった期間の話を話題にしていた。


「ムシャクシャしてやった。今は反省している。以上」


「何だあ? もう終わりって、黒歴史をほじくり返されたくないのか? 入学式なんてそんなにまだ時間も経ってないだろ?」


「止めて! 僕のマウンテンサイクルを荒らさないで!」


「でもま、今はどうにかなったって聞けて安心したぜ。いじめなんかになってたら俺が学校に乗り込むつもりだったからな」


 まあ、どうにかはなったよ。

 SSRお嬢様が僕の理解者になってくれたからね。

 ああ、今ではRお嬢様くらいだっけかな。

 僕の事件に彼女の父親が関与して逮捕されたから、今では分家でお世話になってランクダウンしたようだ。


 まあ、ざまあとまでは言わないけどね。


 彼女には赤音ちゃんと再会する手助けをしてもらったし、これでも多少の感謝はしているのだ。


 本当に赤音ちゃんに比べたら、本当に少しだけどね。


『ツンデレ?』


 もっちゃん、ちゃかさない!


 しかし、学校なんてどうでもいいんだけど、赤音ちゃんが武力介入すると戦争根絶どころか太陽炉――もとい新たな火種となりかねない気がする。


 ここは、やんわりと拒否だな。


「バイオレンスになりそうだから僕の方でなんとかしておくよ……」


「そんな事言ったって、まだそんなにクラスメイトと関われてないんだろ?」


 しかし残念。信頼度が足りないようだ。

 

「ま、まあ? 赤音ちゃんがいれば僕には問題ないですし? おすし?」


 もっちゃんもね。

 あと剛田さんとか?

 そうそう、僕は量より質なんですよ。はい。


「そういう腐った根性だけは俺が修正してやるからな?」


 ニコニコと笑う赤音ちゃん。

 正直、怖いがこちらにだって奥義がある。


「ならば赤音ちゃんが転校してくるしかあるまい! そうすれば学校も楽しい!」


 秘技! 『お前それサバンナでも同じこと言えんの?』戦法だ!


 彼女は体質的に普通の学校生活が送れない。

 僕に学校生活の改善を提案するならば、自身の改善も提案しないとね。

 同じテーブルにつけない以上、文句は言いっこなしだぜ。ベイベー。


『見苦しい言い逃れ……』


 やめて、もっちゃん。

 その言葉は僕に刺さる……。


「そう来たか……。まあ、出来ればしてやりたいんだけどな……。出来たら楽しいんだろうな……」


 立ち止まり、困った顔を見せる赤音ちゃんに心が痛む。


『なら最初から言うな定期』


 うぐっ……。


「ごめん、ふざけすぎた」


「悪い、俺も焦ってるのかな。湖文に後悔しない生き方をしてほしいとか、普通の人より生活できる時間が短いと思うと、やれることは一つでも多くやっておきたくなるんだ」


「謝らなくてもいいよ。そのお節介があって僕は救われたんだしね。でも、何だろう。これって恋人として好きっていっていいのかな?」


「ん?」


「これじゃ、捨てられた動物が保護されて飼い主を盲信してるだけじゃないのかなって……」


「ま、それに近いのかもな。でも俺はきっと思い出してくれるって信じてるぜ」


「君の信じた僕ってやつ?」


「ああ、今は歪な関係でも、きっといつかどこかで俺たちは本当の意味で――」


 頬を染めて赤音ちゃんは僕から顔を逸らす。

 僕は首を傾げる。


「いや、こんな場所で、しかも俺からとかハズいだろ……」


 気がつけば近くの人が僕たち二人を見ていた。

 いや、美少女な赤音ちゃんを見ていたのか?

 まあ、どっちにしろ確かに注目されてて恥ずかしい。


「あっははっ! まあ、とりあえず続きはカフェで仕切り直しといきませうか!」


 僕も誤魔化しながら赤音ちゃんの手を握る。


「そ、そうだな!」


 そうして僕らは公園の中にあるカフェに入った。


「ご注文はウサギぺこですか?」


「はい?」


 僕のオーダーに女性の店員さんが首を傾げる。


「こら、店員さんを困らせるんじゃない! ってか、湖文がオーダーを受けてどうすんだ!? あ、こいつバカなんで、すみませーん!」


「バカとは失礼な! バカと言ったからには、バカと鋏は使いようということで上手く利用してください! 3、2、1、ブー、はい赤音ちゃんもバカー!」


「おう、じゃあバカな俺も上手く利用してくれや。俺はグーしか出さないからよー」


 パキポキと拳を鳴らす赤音ちゃん。

 何その超怖そうな心理戦。


 それ、チョキじゃ勝てませんやん。

 それ、ジャンケンどころかジャジャンケンになってますやん。

 絶対に殴るやつやんな……。

 ワイ、くるくるパーやからパー出すねん言うても、それぶち抜いてぶん殴ってくるやつやん。


「投了します……」


「ふふっ、面白いカップルさんですね。カップルでシェアして食べるパフェなんて如何ですか?」


「おっ! 俺、食べたい!」


「んじゃ、それと僕はホットコーヒーかな。赤音ちゃん、他に何か頼む?」


「いや、俺はパフェだけでいいや。注文は以上で」


「はい、かしこまりました〜」


 店員さんは注文を復唱して去っていった。

 それを見計らったかのように赤音ちゃんが何かを思いつく。


「そういやよ〜、自己紹介で思い出したけど、俺たちって、まともに自己紹介してなかったよな」


「まあ、掘り下げてはいなかったかもね」


「じゃあ、2回目のデートってことで、互いのことをもっと理解していこうぜってのが今日の目標な!」


 僕の誕生日は事件解決が優先だったからデートどころじゃなかったし、まだデートも2回目なのだ。


「まあ、1回目なんて家具とか買ってゲーセンいったくらいだもんね」


 同棲生活のためのマンションと聞かされたものの、他人の好意で住まわせてもらっている居候としては、ミニマリストにならざるを得ないといいますか、覇王何ちゃら拳を使わざるを得ないといいますか。

 とにかく、殺風景なリビングと寝室だったのですよ。

 で、それを赤音ちゃんが見かねての買い物デートだったわけなのです。


『知ってる』


 もっちゃん、僕の事知ってて偉いねえ。


『その後、赤音ちゃんが出てきてくれなくて何回か発情してたことも知ってる』


 偉くない! 偉くない! ぜんぜーん偉くないッ!


「じゃ、個人情報は知ってるから省くとして、それ以外で聞きたいことを互いにお題を出して答えていくのはどうだ?」


「それって黙秘権ならぬパスってできるの?」


「まあ、いいけどよお? 恋人になって隠し事ばっかりってどうなのよ?」


「ほう、じゃあ、あんな事や、こんな事、いっぱい質問してもいいんだね?」


『イメージ映像でセクハラしないでくれる?』


 もっちゃん、君は今更ダロ!

 何年、不健全男子の頭の中に住み着いていると思ってんの!?


「ほう? 湖文はこの空間をR18にしたいのか? お前がレーティング上げるならグロ表現も規制が緩くなるってわけだ」


「やめてください しんでしまいます」


 助けて、CER○!

 助けて、映○倫!


『大丈夫、深沼くんが審査で卑猥な生物と判断されて消されるだけだから』


 お前……、消えるのか?

 って、僕か!?

 うそん!

 まもって守護○天!

 助けて、チェン○ーマン!

 助けて、ワン○ンマン!

 助けて、ラッキー○ン!


こっちで叫ぶ前に命乞いしたら?』


 ですよね〜。


「すみません、どうか命だけは……」


「おう、じゃあ全年齢版の健全なお題で頼むわ」


 そんな感じで僕たちの自己紹介が始まった。

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