情熱の炎
カフェを出て、買い物なんかをして、僕らはデートを満喫した。
買い食いしたホットドッグを片手に、赤音ちゃんとゲームセンター『シャングリ・ラ』へ行く。
知り合いの店というものは便利なもので、事務所に荷物を預けて遊べるのは有り難かった。
ちなみに1階から5階までがゲームセンターで、6階が事務所となっている。
僕らは6階で荷物を置くと、4階のビデオゲームコーナーへと向かった。
いやぁしかし、ゲームセンターにとって経営が厳しい時代だというのに、赤音ちゃんの好きなフォビドゥン・ライフはゲームセンターの救世主となってしまったもんだ。
ゲームセンターと連動したサービスを提供することで、経営難だった店を何件も救ったのだと言うのだから驚きだ。
例えば、フォビドゥン・ライフの人形がゲットできるUFOキャッチャーでは、その人形のタグについているコードをゲーム内で入力すると、人形と同じ格好の追加衣装がゲーム内でもらえたり、メダルゲームとスマホアプリを連動させると、お気に入りのキャラクターがメダルゲームの演出を盛り上げてくれたり、そのメダルで限定アイテムと交換できたり、ゲームセンター用の多人数協力対戦ゲームがフォビドゥン・ライフの外伝ゲームであり、格闘ゲームのデータと相互リンクしたプレイが可能となっている。
しかもフォビドゥン・ライフの格闘ゲーム自体も、ゲームセンターオリジナルのモードがあって、家庭用では遊べないガチモードの対戦が可能となっていたりするのだ。
まあ、そんな訳で僕は赤音ちゃんのガチ対戦に付き合わされているわけなのだ。
通常、格闘ゲームというものはキャラクター性能というものは、強すぎる、弱すぎるなんてプレイヤーの意見でアッパー調整したり、弱体化であるナーフをされたりして変化するものなのだが、ゲームセンターオリジナルのガチモードは、好きなキャラクターの能力を自分で成長させるRPG要素がある。
それは言わば、対戦相手と会ってみなければその強さが未知数であり、見た目通りのキャラクター性能からかけ離れた調整がされている可能性もあって、戦ってみるまで攻略方法が読めない真剣のガチバトルが発生するのである。
ムキムキのキャラクターに高速ワープ移動を搭載して、スピードファイターに仕上げてみたり、動きの早いキャラクターにとんでもなく強力な一撃必殺技を追加してみたりと、カオスでアングラな対戦が楽しめるということでゲームセンターは賑わっている。
しかも家庭用と違って毎回プレイするのにお金を支払うのだ。
負けられない戦いがそこにある。
しかも一定の連勝プレイヤーには1クレジットの追加プレイが可能(貯金が可能)となれば、ガチもガチ勢が本気で戦っているのだ。
まあ、そのガチ勢に僕が入れる余裕もなく、こうして後ろから眺めて見ていることしかできないのだが。
『解説乙』
もっちゃん、僕の
まあ、僕もフォビドゥン・ライフは動画でしかしらないからな〜。
ざっくりと物語を説明するとこんな感じだ。
彼らに服従を誓うか、禁断の
そこは
しかし、死ぬ直前に手に入れた
しかも生まれ変わった直後に彼女は現代へと戻ってしまい、彼女自身がディストピアの未来を作ってしまう要因となってしまったという皮肉な物語となっている。
今は3作目だが、1は主人公リーンが世界各地に出現した
3はとうとうリィンが見てきたと言われていた未来まで話が進んで、過去の女海賊船長リィンまでプレイヤーキャラクターとして使える内容となっている。
そう、物語は追っていけるほど面白いんだけどね。
ストーリーモードはアニメみてる気分になるほど出来が良いし。
いや、しかし格闘ゲームを上手くなってまで遊びたいかと言われると、うーんな感じ。
ストーリーが好きだから格闘ゲームに手を出したって人は多いけど、僕はそこまで上手くならなくていいかなあ。
バーチャルアイドルとかだってガチ恋とかもしなかったし、動画で満足したり、ソシャゲでポチポチしてくくらいの気の抜けた炭酸程度で僕は満足してしまうのだ。
ガチに何かをしている人とは熱量が違いすぎる。
「湖文もやるか?」
「ボコボコにされる未来しか見えませんな〜」
「じゃあ、今度からちょっとずつでも俺と家庭用版で練習しようぜ」
「それで僕がガチ勢まで行けると思う?」
「それは湖文次第だろ。俺はお前に俺の好きなもんを肌で感じで欲しいって感じだな。強くなれっては言わないさ」
「そっか」
対戦ゲームをプレイしながらも、赤音ちゃんは僕と会話できるくらいに余裕を見せていた。
使用キャラは主人公のリーン・カーネーション。
彼女は、まるで赤音ちゃんのように髪が赤い美少女。
花柄の黒い和服で着飾って、愛刀『和蘭石竹』による抜刀術でクールな戦いを繰り広げる姿は男女共に人気が高い。
その静かに宿した怒りの炎は、まさしく乱暴な誰かさんにそっくりだ。
その情熱的な炎に憧れた
しかし、僕にとっては結構な強火なんじゃないかと思ってしまうことがある。
僕が彼女と一緒にいることが耐えきれずに、いつか燃え尽きてしまうんじゃないかという不安感。
灰になることは一向に構わない。
もともと拾い上げてもらった命だ。
しかし、そんな惨めで儚いものを彼女に見送らせてしまうことに罪悪感を感じてしまうのだ。
かといって何か頑張ってみるとか、僕が生まれ変わるような事が簡単にできるはずもなく……。
「深沼湖文、ちょっといいか?」
僕が考え事をしながら赤音ちゃんのゲームを見ていると、背後から声がかけられた。
ここの代理店長である剛田さんだ。
ゲームセンターの制服がはち切れんばかりの肉体で、どこの傭兵部隊に所属していたんですかって体格をしている。
実際に傭兵部隊に赤音ちゃんと所属していたことがあって、二人は海外の紛争を経験しているのだとか。
ちなみに片目は切り傷があって閉じられており、その筋の人たちからも恐れられるほど強面である。
ほんの少し縛った後ろ髪は、スティー○ン・セガールを意識しているのだろうか。
とっても貫禄のあるおっさんである。
「え? ああ、剛田さん、どうしたんですか?」
「事務所で話したいことがあるんだが来てくれるか? お前に支払われている報酬についての件でちょっとな。赤音お嬢、少し深沼湖文を借りていくがいいか?」
「おお、ロリババアに伝言でも頼まれたのか?」
「まあ、そんな所だ。そんなに時間はかからないから、お嬢が事務所に来なくても多分大丈夫だ」
「分かった。んじゃ、湖文、戻ってきたら一緒に遊べるゲームでもしようぜ!」
「分かった。終わったらここに戻ってくるよ」
「おう!」
「じゃあ、行くか」
僕は剛田さんと一緒に事務所へと向かった。
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