親ガチャ失敗の僕は、多重人格の束東さんでガチャをする

@honestytiwawa

ガチャ脳理論の少年と奇妙な同棲生活

 朝、小鳥の囀りと共に目が覚める。


 カーテンを開ければ澄み渡る青空で、気持ちの良い朝が僕を迎え入れてくれた。


 正月でもないってのに、新しいパンツを履いたわけでもないってのに、スゲー爽やかな気分だった。


 こんなに素晴らしい日に目覚まし時計で目覚めるなんてナンセンスだ。

 そんなもん無粋であり邪道だ。

 あんなガミガミとうるさい説教のような音で起きて君たちは何が楽しいんですか? ドMですか? って話だ。


 そんなもんに頼るくらいなら、学校に遅刻したって結構。

 というか、何なら寝坊してサボりたいまである。


 ただ、いくら自由過ぎる僕とはいえ、そんなふざけた生き方で大丈夫かと問われたら、ダメかも分からんねと答えるかもしれない。


 僕は大丈夫だからと思ってこんな生き方をしているわけじゃないから。

 所詮は人生など運否天賦。

 なるようにしかならないし、それ以上でもそれ以下でもないのさ。


 この青空も、小鳥の囀りも僕が演出しているわけじゃない。

 全てが神様の定めし運命によるもの。

 であれば運を天に任せることは何も間違っちゃいない。


 つまり、人生とはガチャなのである。

 何が出るか分からないガチャを引いた結果を楽しむのが人生というものなのだ。


 つまり、この朝の目覚めというのもガチャの演出の一部。


 晴れてデート日和だったら期待度アップ。

 小鳥の囀りで目覚めたら期待度アップ。

 雨の音で目覚めたら期待度ダウン。

 寝坊したら期待度大幅ダウン。


 そんな感じで僕は判断している。

 おっと、ここで誤解しないで頂きたいのが、僕は『彼女』とデートの選択肢が狭まってしまうから雨を悪い演習に含めているだけであって、雨が嫌いというわけじゃない。

 別に雨が降っても全然構わない。

 そんな日もあるさねで終わりの話だ。

 都合の良い日が続くなんて、そんな幻想は抱かない。


 でも、そんなガチャ脳でリアリストな、『その幻想をぶち壊す!』とか厨二病でイキっていた僕の前に『彼女』は現れた。


 一番落ち目の時に宝くじ一等の如く、ガチャSSRの奇跡の『彼女』が現れてしまったのだ。


 いや、宝くじ一等と例えるのは『彼女』に失礼か。


 お金をいくら積まれようが、『彼女』の代わりに値するものなど存在するはずもなく、そんな『彼女』に値段など僕にはつけられない。

 戦闘力を計測したスカ○ターがボンっと壊れるくらいに、『彼女』のパワーは『計り知れない強さ』なのだ。


 戦闘力53万だとか、変身をまだ2回残しているとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わってしまったのだから。


 いや、これはこれで『彼女』を宇宙の帝王に例えるのも失礼か。


『本家の宇宙の帝王にも失礼』


 的確なツッコミありがたう。

 まあ、でもそれくらい凄い『彼女』だって断言するほどのろけちゃえるんだよね。

 

 そんな最高の『彼女』と挨拶を交わすべく、僕は毎日祈りながらリビングへとつながる寝室の扉を開けるのだ。


 ガチャの演出は良好。

 心の中では派手なカットインやら、レインボーな光が差し込んでいるのだからきっと大丈夫。


『それは幻覚』


 いやいや、そんなわけないっしょ。

 今こそ結果を受け入れる時。


 って、何で『彼女』と挨拶するイベントを期待するだけでこんなお祈りしてんのって思うかもしれないけれど、『彼女』が『彼女』じゃない時があるんだから仕方ないじゃあないか!


 益々意味が分からないって人、いや、そこで退屈そうに聞いている君!


 僕の『彼女』はアタリとハズレがあるのだよ!


 今日は当たってくれるんだろうな!?


 アタリが出たら、今日一日、『彼女』とイチャイチャでラブラブな一日が過ごせる。

 ハズレたら他人と同レベルの扱いを受けて、そっけない態度で恋人に雑に扱われる一日となる。


 そんな人生ってあります?

 いくら気分屋な『彼女』だったとしても落差激しくない?


 でもこれが僕と『彼女』の日常生活なのだ。


『彼女』は朝になるとウィッグを付けてリビングへとやって来る。


 そのウィッグの髪色でアタリ、ハズレが決定される。


 赤がアタリで、黄、紫、白、黒、緑、ピンクはハズレ。


 しかも、どの色のウィッグを付けたかによって性格まで変わってしまう。


 つまり、僕の人生ガチャ論を神様は試しているのか、僕の付き合っている『彼女』は多重人格の美少女だったのである。


 悲しきかな、僕が好かれているのは赤色のウィッグを付けた『彼女』だけ。


 ハズレの『彼女』が出てくる日は、相手にされません。

 ま、僕の魅力なんて皆無だし、一人の美少女に好意を抱かれていることが奇跡なんですけどね。へへへっ。


 むっ、そこっ、さっきから反応薄いぞ! 何やってんの!


 僕は、僕の左舷ベッドで退屈そうに聞いているモザイク少女へ心の中で文句を言う。


 モザイク少女と名付けた理由は、頭部がモザイクのように靄がかかっていて、どんな顔か分からないからだ。

 度々、僕の前に出てきては、僕と話相手になってくれる小学生くらいの女の子。

 言葉遣いは定まっていないのか、僕のカオスの心を反映しているかのように、子供っぽかったり、大人っぽかったりコロコロ変わる。


 先程から僕のモノローグにツッコミを入れていたのは彼女である。

 まあ、所謂、イマジナリーフレンドってやつだ。

 通称もっちゃん。

 すごーい! 君は僕と会話ができるフレンズなんだねっ!


『それ、普通の友達だから。心の中で会話できるってことの方が重要だよね?』

 

 もっちゃんの僕に対する風当たりが強い。

 僕の説明もつまらなそうに聞いていることが多いから、きっとそうなのだろう。


『というか、知ってる話ばかりだから今更だし』


 辛辣ぅ!

 いや、まあ、すっげぇ正論パンチでぐうの音も出ないっすわ。サーセン。


『今日は当たるといいね』


 もっちゃん、本気でそう思ってる?


『分かんない。ハズレた方が私とお話してくれるなんて思ってないよ?』


 いや分かってんじゃん!

 ってか、期待してんじゃん、それ!


 どっかの曲が聴こえてきそうなほどにツッコミを入れてしまった。


『取り敢えず扉を開けよ? いつまでワンアクションに尺とるつもりかな?』


 メメタァ! って効果音が鳴るくらいメタい反応ありがとうございます。


 しかし、緊張してきたな。


 君に会いたいときはどうするってか。

 秘密の扉をノック、ノック――。


『はよしろ……』


 へい親分……。


 幻想の小学生に言い負かされる高校生の図。

 それもいつものことだけど、精神異常者と多重人格者のカップルという奇妙な同棲生活が今日も始まろうとしてる。


 僕、深沼ふかぬま湖文こふみは、そんなこんなで今日もまた現実世界でガチャを引く。

 多重人格の束東そくとうさんでガチャを引く。

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