奇妙な同棲ルール
僕の直感は正しかった。
何かいい事でもあったのかい?
廃ビルに住んでるオッサンにそう問われたら、間違いなく『YES』と即答するだろうね。
だってもう味噌汁とか既にいい匂いがしてるんだもの。
朝食が作られている→
ハズレの『彼女』たちは朝食を作らない→
つまり、ガチャSSR確定演出ってわけだ。
いや、しかし、まさか、朝食だけ作ってみましたというドッキリの可能性もあるのか?
『それは、ないんじゃない?』
もっちゃんも同意見だ。
へへっ、やっぱりこれはアタリってことだよな?
僕がリビングに来たことを悟ったのか、赤色のウィッグを付けた『彼女』がキッチンから姿を現す。
「おっ! ようやく起きてきたな!」
その男勝りな乱暴な言葉も加わって、僕のテンションは最高潮に達した。
気分はまさにクイズ番組の最終問題に正解して優勝したかのようなものである。
■■■■■■■■■■■
■答■ コロンビア ■
■■■■■■■■■■■
僕は両手でガッツポーズを作る。
『幻聴ね。汚い絵面を想像するのはやめてほしいけど、おめでとう』
もっちゃんがそう言って拍手する。
ありがとう!
まるで某ロボットアニメの最終回かと思えたくらいに感謝の言葉を言いたくなってしまった。
いやあ、本当にいい最終回だった……。
って、これから甘い一日が始まるってのに終わらせてどうすんだ僕は!?
『深沼先生の次回作にご期待下さい』
もっちゃん!?
まだ僕の戦いは本当にこれからなんだよ!?
しかも僕が作者なの!?
『期待してないけど、次のネタ考えてきてね』
今世はボツなんですかねっ!?
僕ともっちゃんが心の中で乱戦を繰り広げていると、そのタイムラグに疑問を抱いた『彼女』が尋ねてくる。
「そんなに朝食が嬉しかったのか?」
「違うよ。今日、
「へっ、嬉しいこと言ってくれるよな。湖文くんはさぁ」
ワシワシと僕の頭を撫でる赤音ちゃん。
ウィッグは赤髪のポニーテール。
モデル体型の長身に美しい顔立ち。
そんな絶世の美少女が、タンクトップにハーフパンツというくっきりはっきりのボディラインを丸わかりにさせているからヤバい。
語彙力がなくなるくらいに、ボン・キュッ・ボンだ。
そんな赤音ちゃんが密着して撫でてくるものだから、その匂いと柔らかさに僕の体は硬直してしまう。
特にどこがだなんて野暮なことは聞かないでほしい。
『朝から元気』
やめてください、もっちゃん先輩。
身長がそのくらいだからって、『そこ』に目線を合わせないでください。
自覚したらもっとヤバイんですから。
『私と会話する必要がなくなる日も近いのかも』
もっちゃん?
赤音ちゃんと本格的にイチャコラしても、もっちゃんを無視することなんてあるはずがないよ?
『深沼くん? 彼女と愛し合ってる最中に私が気持ち悪いこと言ってほしい?』
そ、それは嫌ですね。はい……。
『まあ、私も君の営みなんて見たくもないから、多分そこまで関係が進んだら私は消えてると思うな』
うーん、それは寂しいなあ。
『そう思ってくれるだけで十分だから! ほら、君が止めないと彼女、一生ワシワシしてるんじゃないのかな!?』
いや、これはこれで最高なんですよ。
グヘヘヘへへ……。
「むっ!? 湖文が変な気分になる前に終わるか!」
「もう既になっているんですが、ここで止めるなんてとんでもない!」
「心の声がダダ漏れだっつーの!」
「アビバっ!」
僕は赤音ちゃんのチョップを受けて、床へと叩きつけられる。
「朝食ができるまでもう少し待ってくれよな」
立ち上がり、キッチンに戻る赤音ちゃんを見送りながら僕は今日も彼女が絶好調であることに喜びを感じる。
さすが赤音ちゃんだぜ!
ラブコメ時空じゃなかったら死んでいるところだった!
『良い子も悪い子もマネしちゃダメよ。ラヴィ……』
もっちゃん?
誰に言ってんの?
『ラブコメ時空だと勘違いしただけで怪我が軽症になるとか、そんな意味の分からないプラシーボ効果が起きるのは、君ぐらいだって褒めてるの』
え?
もっちゃん、それ、褒めてる?
いやまあ、褒めているということにしよう。
「しかし、『深沼湖文からの過剰なスキンシップを禁じる』、ね」
僕は同棲のルールを思い出す。
➀朝、絶対に顔合わせと簡単な挨拶を行うこと。
②起きてきた人格が赤音だった場合、学校を休んででも一緒に過ごしても良い。
学校には事情を説明済みなので、休む場合は『特殊な事情』と一言連絡するだけで良い。
③人格交代の核となっているウィッグに触れてはいけない。
④前述を避けるために深沼湖文からの過剰なスキンシップを禁じる。
⑤寝室は別々とする。
⑥『彼女』が寝室以外で眠ってしまった場合、次に目が覚めた時に人格交代が行われてしまうので、担当の者を呼んで寝室へと運んでもらうこと。
⑦深沼湖文は許可なく『彼女』の寝室へ入ることを禁ず。
⑧共有スペースに恋人である証拠となるような物を置くことを禁ず。赤音以外の他の人格とは他人であるということを自覚して配慮すべし。
⑨基本、共有スペースの清掃等は深沼湖文が行うこと。
人格交代で記憶を保持していない『彼女』たちに継続した部屋の管理維持が難しいためである。
⑩積極的にニュース、新聞等の情報を得ることを禁ず。
深沼湖文は自身の関わった事件を自ら避けて自衛するとこちらも理解しているが、体調不良になった前例も鑑みての項目である。万全を期して同棲生活を送られたし。
⑪
行き先によっては許可がおりないこともある。
⑫前述以外にも確認することがあれば、担当の者に相談すること。
⑬あまりにも『彼女』に悪影響を及ぼすようなことがあれば、同棲生活は強制終了となる。
とまあ、面倒臭い
あ、学校サボれるのは素晴らしいけどな。
でもま、赤音ちゃんの保護者代理が決めたルールだしね。
仕方ないね。
『君もそれで守られてるってこと、少しは自覚した方がいいかもね?』
いやさ、でもそれって赤音ちゃんが僕を好きになってくれたから得られたボーナスであって、僕自身が何か努力して得たわけでもないからねえ。
自覚しろっていわれてもね。
『深沼くんって、買ってもらったものをすぐ壊しちゃう子供と同じタイプだよね?』
ぐっ! 否定できない!
確かに、巨大ロボットフィギュアの格納スペースに駄菓子詰め込んだことあるぞ!?
当時の僕はカッコいい器としか思っていなかった気もするね。
でもあれが唯一、お母さんに買ってもらった……。
ズキリと頭が痛んだ。
『ゴメン、変なこと思い出させた……』
ううん、もっちゃんのせいじゃないさ。
赤音ちゃんの料理楽しみだな〜。
僕は過去を忘れるように現在の幸せに埋没していった。
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