目覚めると
朝吹
目覚めると
(お題)
『交差点で信号を渡っていたところ、トラックに撥(は)ねられたA。意識不明のまま病院に運ばれたAだったが、しばらく経った後に無事、目を覚ます。そうしてAが目覚めてから数年後、世界は滅亡した。…なぜか?』(100字)
・400字程度であること。
・Yes/Noの質問で辿り着ける内容であること。
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目覚めると、雪は変な色だった。塵のような雪が降っている。物陰から痩せこけた子供が歩いてきた。
「口にするな」
声をかけたが、子供は残骸の上の雪をすくっていた。俺は子どもの腕を掴んだ。少女だった。
「知ってるわ」
吐息をつくと、少女は雪に片頬をおしつけて、眠るように瞼を閉じた。
「この雪を食べ続けると死ねるのよ……」
夕陽が大理石模様を上空に描いている。廃墟に毒の雪が降っていた。
缶詰を渡すと少女は美味しそうに食べた。
「少しずつだ」
探せば食料はまだあった。俺は洞のような住居を地下に作っていた。
食べ終わると少女は横になった。栄養失調のせいか夜は眼が見えていないようだ。
「戦争の間、おじさんは何処にいたの」
少女が毛布の中から訊く。俺は応えた。刑務所だ。
工作員の俺はアクセルを踏み込んだ。兵器を作っていた研究者は重傷を負ったが助かった。それは神の啓示に俺には想えた。
闇の中で少女の手が俺にふれる。小さな声が囁いた。わたしが死ぬ時はおじさんと一緒よ。
穢れた雪は明日も壊れた世界に積もるだろう。
神があの時、俺が研究者を殺すことを阻止したのは、人類を滅ぼす御心だったからなのか?
少女の手を握りしめて、俺は泣いていた。
[了]
目覚めると 朝吹 @asabuki
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