狐憑
中島敦/カクヨム近代文学館
ネウリ部落のシャクに
後に
ネウリ部落のシャクは、
シャクが変になり始めたのは、去年の春、弟のデックが死んで以来のことである。その時は、北方から
その後間もなくシャクは妙な
さて、それ
今迄にも憑きもののした男や女はあったが、
人々は珍しがってシャクの譫言を聞きに来た。おかしいのは、シャクの方でも(
シャク自身にしても、自分の近頃している事柄の意味を知ってはいない。
シャクの物語がどうやら彼の作為らしいと思われ出してからも、聴衆は決して減らなかった。
若い者達がシャクの話に聞き
シャクの物語は、周囲の人間社会に材料を採ることが次第に多くなった。
長老は
人々は、成程そうだと思った。実際、シャクは何もしなかったから。
厚い毛皮の陰に北風を避け、獣糞や枯木を燃した石の炉の傍で馬乳酒を
シャクも野に出たが、何か眼の光も鈍く、
憑きものは落ちたが、以前の勤勉の習慣は戻って来なかった。働きもせず、さりとて、物語をするでもなく、シャクは毎日ぼんやり湖を眺めて暮らした。其の様子を見る度に、以前の物語の聴手達は、この
丁度雷雨季がやって来た。彼等は雷鳴を最も
其の日の午後、或者は四度雷鳴を聞いた。或者は五度聞いたと言った。
次の日の夕方、湖畔の
ホメロスと呼ばれた盲人のマエオニデェスが、あの美しい歌どもを
狐憑 中島敦/カクヨム近代文学館 @Kotenbu_official
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