901-2

「カスはいつもそのペンを使っているよね」


 就寝前の勉強中。


 唐突に従姉がそう尋ねてきた。


「そうだね。基本的にはそうしているよ」


「金属製だよね。重くないのかい?」


「使い始めは重かった。今はこの重さに慣れたせいで、他が軽く感じる」


「マンガなら通常のペンにすることで筆記速度が2倍になりそうだね」


「なるはずもない。なんなら書きづらいまである」


「つまらないね」


「結構なことだ。アマの退屈は私を愉快にしてくれる」


「ちょっとそのペンを貸してくれないかな」


「どうしてそういう話になる」


「どのくらいの重さか気になるんだ」


「検索しなさい。ネット上に数字が転がっているよ」


「その重さを実感したいんだよ」


 辟易とさせてくれるね。どれだけ私の邪魔をしたら気が済むんだ。


「残念ながら、このペンの重さは私にしか分からないよ」


「秤を使えば誰にでも分かるだろうに」


「このペンはいただきものなんだ」


「碓氷さんからだよね。知っているよ」


「ならば分かるだろう? このペンには少年の気持ちが込められているんだ」


「あの子はそんなタイプじゃないだろう」


「まあ、即物的なところはあるね」


「そこに気持ちを込めたとて、1ピコグラムすら重くなったりはしない。よって飛白の言い分は非論理的。ただの気のせい。みたいなことを言いそうだよ」


 言いそう。実に言いそうではあるものの、あっさりと認めるのも癪だ。


「しかし根拠はある。このペンにはバースデーカードが付属されていたんだ」


「で?」


 理解力の乏しい従姉のために、ペンケースに入れたままのカードを引っ張り出す。


「アマの耳に入れるのは惜しいが」


 そこに書かれた句読点込みで75文字になる文章を読み上げてみた。


「で?」


 こいつ。


「伝わらないか。この文章に込められた少年の想いが」


『有名なシャーペンですけど、使い

 難い場合は捨ててくれてだいじょ

 うぶです。俺も上条先輩みたいな

 飛耳長目の人になれるように、面

 白半分ですが頑張ってみますね。』


「バースデーカードなのにおめでとうすらないじゃないか」


「そこもまた少年らしいということさ」


 これは私に向けられたメッセージだ。


 アマなんぞに分かって貰えなくても結構だね。


 私にだけ伝わっていればいいんだよ。


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飛白連理 かがみ @kagamigusa

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