第4話 傷だらけの勝利

 屋根裏が静かになったので、惣兵衛は様子を見るべく、店の屋号が入った提灯ちょうちんを携えて、屋根裏に上がった。

 すると、見たこともないほど大きなネズミが、喉笛のどぶえを切り裂かれて息絶えているではないか。まさに犬ほどもある巨大な化けネズミであった。


 その隣を照らして見ると、茶々丸が息も絶えだえに横たわっていた。さらに、その横には助っ人のトラ猫、虎徹が血を流して倒れている。

 惣兵衛はすぐさま丁稚でっち小僧を呼び、茶々丸と虎徹を二階の部屋におろして、座布団の上に寝かせた。

 そして、丁稚に言いつけた。

玄庵げんあん先生を叩き起こして、すぐ来てもらうんだ」

 玄庵とは、近所のヤブ医者であるが、猫の傷の手当くらいはできるであろう。


 その後、お菊の手厚い介抱で、茶々丸は一命をとりとめ、虎徹同様、次第に傷も癒えた。

 茶々丸は忠義の猫として人々の喝采を浴びた。

 虎徹はさらに一両を出して、徳太郎から譲り受けられ、茶々丸と一緒に暮らすことになった。愛娘まなむすめお菊のたっての願いを、惣兵衛が叶えたのである。

 翌春、お菊は晴れて立派な婿を迎えた。披露宴はもちろん島之内の料理屋、徳一を借り切って盛大に行われた。

 茶々丸と虎徹も賓客として、お菊の隣でお頭つきのたいをふるまわれた。

 あおい空には桜の花びらがひらひらと舞っていた。


 ――完


 ※この物語は、江戸時代の雑話集『耳嚢みみぶくろ』に拠る。ただし、内容に脚色改変の手を加えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫の恩返し 海石榴 @umi-zakuro7132

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ