第3話 トラ猫、虎徹参上

 翌朝早く、惣兵衛は茶々丸に言われたとおり、島之内の料理屋「徳一」に出かけた。すると、徳一の玄関先に、招き猫よろしく大きなトラ猫が鎮座しているではないか。見るからに堂々としたトラ猫である。


 惣兵衛は早速、店主の徳太郎に事情を話して、お宅の猫を貸していただきたいと丁寧に頼み込んだ。

 しかし、徳太郎は首を横にふる。

「旦那、無茶を言ってはいけませんぜ。化けネズミ退治に、うちの猫を貸してくれっておっしゃっても、そんな奇妙な話、誰が信じるかってことですよ」

 ならば、やむを得ぬと、惣兵衛は巾着から一両を取り出し、

「これでいかががですかね。お頼み申しますよ」

 と手渡し、徳太郎に頭を深々と下げた。


 憂き世も地獄の沙汰も金次第である。

 かくしてトラ猫の虎徹が、惣兵衛の店に到着すると、どこからかブチ猫の茶々丸も帰ってきたではないか。

「茶々丸!」

 お菊は、茶々丸を見るや、すぐさま抱き抱えて、頬ずりを幾度も繰り返した。

 その間、虎徹は惣兵衛からご馳走攻めにあっていた。早速、今夜から働いてもらわねばならない。腹が減ってはいくさにならぬ。  

 

 さて、その夜。

 茶々丸はお菊の寝床からそっと抜け出し、お菊の顔をじっと見た。もしかして、今夜、化けネズミとの戦いで死ぬかもしれないのだ。相手は手ごわい。これが今生こんじょうの別れになるやもしれぬ。茶々丸はニャンとひと声鳴いて、お菊に別れを告げた。


 外では虎徹が茶々丸を待ち構えていた。眼を吊り上げて、すっかり戦闘モードである。

 そして深夜のこと。

「シャー!」

「ギャッ!」

「グフッ!」

「フーッ!」

 などと、すさまじい鳴き声と物音が屋根裏でわき起こり、しばらく騒音が鳴り響いていたが、やがてすべては夜の静寂しじまに包まれた。戦闘が終わったのであろう。

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