第2話 ブチ猫、茶々丸の夢

 それから半月後の夜――。

 惣兵衛は茶々丸の夢を見た。


 夢枕に茶々丸が現れて、不思議なことを言う。

「オイラは、この家にかれこれ40年も飼われておる。その恩を仇で返したりするものか。オイラが妹のようなお菊坊のそばを離れなかったのは、この家に犬ほどもある大きな図体ずうたいのネズミが巣くい、そやつが隙あらばお菊坊を襲おうと虎視眈々、狙っているからだ」


 惣兵衛は、夢の中で目をむいて驚いた。

「そうだったのかい。そんな大きな妖怪ネズミがこの家にいるんだ。知らなかったとは言え、おまえに悪いことをしたね。どうしたら、いいんだい?」

「化けネズミはとても大きくて、オイラ一匹ではとても歯が立たない。そこらの猫二、三匹でもかなわない。幸い、オイラは隣町の島之内で、見事なトラ猫と知り合った。名前は虎徹こてつという。こいつと組めば、なんとかなるだろう」


 あまりのことに、惣兵衛は隣で寝ている妻のお久を揺り起こし、夢の中に茶々丸が現れ、かくかくしかじかと伝えた。

 すると、お久もまったく同じ夢を見たというではないか。

 夫婦は互いに目を見交わし、

「不思議なこともあるものだ」

「でも、しょせん夢の中のことだしね」

 と、その日は何もせず、呉服の商いに専念した。


 やがて夜がきた。

 と――。

 なんたることか。惣兵衛・お久夫婦の夢枕に、またしても茶々丸が現れ、

「お菊坊を守るためだ。オイラを疑わずに信じな。一刻も早く、化けネズミを退治しなければ、大変なことになる。明日の朝にでも、トラ猫の虎徹を借り受けてきておくれ」

 惣兵衛は茶々丸に夢の中で訊いた。

「で、その虎徹というトラ猫は、だれの飼い猫なんだい」

「島之内の徳一という料理屋で、徳太郎という店主が、招き猫のように可愛がっている大きなトラ猫だよ。明日の朝、絶対に借りてきておくれよ。急がなきゃ、やばいんだ」

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