13話  平穏と、新たなごたごた

 翌日。俺はとりあえず何もかも忘れ、報酬を受け取るために騎士団の本部に向かっていた。


 「こんちはー。『No.Name』」ですー。とりあえずおたくのガフとお話しても?」


 「はっ!!どうぞ!」


 いや~すんなり通してもらえるようになったなー。初めてここに来たときはすごい視線だったのに。


 「邪魔するよ。」


そのまま奥の扉を開け、ガフの部屋に入る。


 「あぁルイ殿。待っていた。」


 「先日は本当にお疲れ。事前に話してた報酬の受け取りに来たよ。」


 「わかっている。約束通り、黒金貨300枚だ。これで間違いな?」


 いや間違いないなて。300枚ここで数えろってか。どんな鬼畜ムーブよ。


 「どうせお前のことだ。ちゃんと300枚そろってるんだろ?」


 そう。俺は騎士団を信じている。信じているのだ。決して数えるのが面倒だからとかじゃないけど。ハッハッハ☆


 「まぁ当然だ。ところで...」


 「あぁ?『あの戦いはみんなで勝利したものだからこんなにいらない』ってか?」


 まぁいいこちゃん主人公ありありのセリフだわな。...違うよ?喧嘩売ってるわけじゃないよ?ココ、大事ね?


 「貴殿は...そういうのは...?」


 「ないよ?」


 「——」


 「またまたわかってるくせに~」


 「...だろうな。」


 「当然。契約は契約だ。事実、みんなで討ち取ったのもあるけど、それは俺らがいなければできなかったろ?」


 さて、こんなにある黒金貨をどう持って帰ろうか...『ストレージ』は権能開放のときに代償にしたし...そうだ!


 「ところでさ、こんだけあるとさすがに大変なんだわ。悪いんだけど俺たちのとこまで送ってくんない?」


 そう。自分で持てない。ならどうするか?簡単だ。そう——


 !!


 「の規定はなかったでしょ?だ・か・らぁ~」


 本能的。とまではいかないだろう。だが間違いなく衝動的に殴りたくなる笑顔でもって、ルイは続ける。


 「配送、して♡」


 だがガフは、騎士として育てた鋼の胆力でもって、これを耐えた。


 「はぁ...今回だけだぞ?」


 え...??また呼ばれるの?もう嫌なんだけど。


 「ま、なんでもいいや。とりあえずよろしく。」



 家に帰り、ルイが初めに見たもの。それは——アリアが巨大な袋を、何とか家の中に入れようと押し込む様だった。うーん謎☆


 「えっとぉ、アリアさん?あなたは今一体何を...?」


 「あぁえっとね、なんか騎士団から大きな袋が届いて、中を覗いてみたら、ルイが報酬に取り付けたって言ってた黒金貨だったの。ルイ、またガフさん困らすようなことしたの?」


 は!?もう届いたの!?いくら何でも早すぎやしませんかね。


 ...あぁこれあれだ。ちょっと違う角度からの嫌がらせだ。俺が無茶言ったから、全速力で配送したんだ。なるほどね、確かにちょっといやだわ。


 てかアリアさん?あなた昨日のこと覚えてないの?あんだけ酔ってたのに?『あ~ん』とかしてたのに?ほんとに?覚えてないの?


 「いや別に?本部行ったら、もう配送したとか言われて帰ってきただけ。思ってたより早いな。」


 『嘘も方便』とはこういうことだろう。俺は逃げますが?はい。


 「ところでソフィアは?」


 ソフィアの姿が見えない。これだけアリアが大変そうにしているなら、少なくとも手伝うだろうし、声さえも聞こえてこない。


 「ソフィアちゃんは自分の部屋にいるよ。なんか、一人で考え事があるって。」


 「そう。わかった。」


 なんとか袋を家に入れ終え、俺はそのままソフィアの部屋に向かう。


 コンコンコン


 「はい。」


 「入るぞ。」


 そのままソフィアの部屋に入る。部屋のベッドの上では、ソフィアが腰を掛けていた。


 「珍しいな。とは。」


 「あはは...やっぱりルイさんには隠せませんね。」


 そう言い、ソフィアは話し始めた。


 「私って...『No.Name』の、お2人の役に立てているのでしょうか...」


わぁおなんか重い感じ?そういうのあんま得意じゃないんだが...


 「私にはアリアさんのような判断力も、愛嬌もありませんし、ルイさんのように強いわけでもない...この間の戦いだって、ルイさんたちが来る直前に、注意を欠いて左足をくじいたんです...こんな私が、お2人の役に立てているのかなって...」


 ...なるほど?確かに彼女にとっては大きな問題なんだろう。ではここはひとつ、ギルドマスターとしてその悩みを解決してやろう。


 「じゃぁソフィア、AとBが同じ速度で歩き、ABとしたら、BはAに追いつけるか?」


 「...?いえ、不可能ですね。」


 「そう。つまりは、なんだ。よく大人は、『努力で才能は越えられる』とか言うけど、その才能君も努力したら絶対に追いつけない。先に『才能』というがあるからだ。」


 「まぁはい...そうですね。」


 「なら、だ。じゃあどうする?」


 「わかりません...」


 「。そんで、自分がを持つもの探せばいい。」


 「...」


 「ちょっとやってみてできなくて、それでも歯を食いしばって、それでもまだできないなら、やめちまえばいい。そんで手あたり次第試してみて、自分がを持ってるものを探して、見つけたら、それを極めればいい。」


 「——」


 「そうすれば、世の中の全ては誰かができるようになる。できないことは、それができやつがやればいい。世の中で目立ってる奴は、だいたいアドバンテージを持ってたやつだけだ。変に肩肘張るな。」


 「...そういうものなんでしょうか?」


 「じゃぁ俺にアリアみたいな愛嬌あるか?」


 「それは——すいません。ありませんでしたね。」


 おぉう辛辣う。ストレートすぎて慣性の法則はたらいてないんじゃない?


 「そういうことだ。お前はお前が出来ることだけやればいい。それにほら——」


 仕返しとばかりに、ルイは攻勢に出た。すなわち——


 「昨日酔ってたときなんか、だいぶ愛嬌あったぞ?何?料理アピして?んで『あ~ん』なんてしちゃっ——」


 フォービドゥン・メモリー黒歴史を掘り起こすという、世界で最も許されざる行為にッ!!


 「ッ——」


 「…はい?」


 ソフィアは恐喝話し合いを選択し、ルイの背後の扉を蹴破った。


 「人って…どれだけ殴れば記憶が飛びますかね…?」


 おっとこいつ、目がマジだ。長居してると殺されそう。


 そのままルイは部屋を脱出し、久しぶりの平和な日常カオスを満喫した。



 「そうだ!たまにはみんなで遊びに行こうよ!」


 おーなんだかんだ久しぶりの唐突さ。


 …しかしあのときは『また振り回されたい』とか思ったけど、実際かなり驚く。今まで対応してきた自分。えらい。


 「そうだなー。今日は特に用もないから俺は問題ないんだが…」


 「えぇ。私も問題ありませんよ。」


 そんなこんなで、アリアが昔から行きたかったらしい、『テーマパーク』に行くことに決まった。…こっちの世界にもあるんだ。テーマパーク。


 …声の高いネズミとかいないかな。いやさすがにいないか。ハハッ☆



 「うわー!見て!ルイ!ソフィアちゃん!おっきな建物!綺麗な乗り物!」


 到着してからはご覧の通りアリアははしゃぎっぱなしだ。こうやって女の子らしくしてるとかわいいんだけどなぁ…


 「見てくださいルイさん…!あれ、ネズミさんです!」


 「ネズミさん?いやいや、夢の国じゃないんだから——」


 振り向いたルイの網膜が捉えたもの。それは、元日本国民なら、いや人間ならばほとんどの者がテレビならネットなりで見たことがあるであろう、ネズミの着ぐるみだった。


 「やぁみんな!ぼく、ミクマ!今日は遊びに来てくれてありがとう!」


 間違いない…!こいつ——ミ◯キーだッッ!


 いやてか『ミクマ』!?熊なのか!?ネズミなのか!?どっちなんだ…!!


 ——おっと危ない。俺としたことが。こんな子供騙しに乱されるとは。


 「最初はあれに乗ってみようよ!!」


 そう言い、アリアが指さしたもの。それはいわゆる、『絶叫マシーン』と分類される、作者が最も苦手とする物の1つだったッ!


 「いまさら絶叫マシンとか…まぁ付き合うよ。」


 〈プルルルルルル〉


 発車のベルとともにコースターが走り出す。いつもあんな激しい動きしてるのにいまさらジェットコースターとか…舐めてる?


 「いいぃぃぃぃぃやああぁぁあぁぁぁ!!!!!!」


 待って!やばい!これやばい!ちょっと待って!ちょっと待ってぇぇー!!


 〈ご乗車、ありがとうございました〉


 「はぁ…はぁ…マヂムリ…もう…絶対ならない…!」


 はぁ…はぁ…待って…なんでこんな疲れてんの…?いつももっと激しい動きしてんじゃん…


 そう。やはり、ルイはわかっていなかったのだ。普段の行動は、自分の意思で動いている、と。


 だがジェットコースターと言えばどうだろう。


 椅子に縛られ。風圧を全身に浴び。高いところから落とされる。


 もっと簡単に言い換えよう。お金を払って怖い思いをする——は?と。つか頭おかしくね?と。そう言いたくもなるのではないだろうか。


 少なくとも、今のルイの思考はそう語っていた。


 「楽しかったですね!」


 「もう1回乗ろうよ!」


 嘘…だろ…!?こいつらなぜそんなに楽しめる!?いやだ!やめてくれ!俺はもう乗りたくない!!


 「るぅ…にぃ…?」


 「え——?」


 「るぅにぃ!!」


 刹那、ルイの『思考加速』がフル稼働し、1つの結論を導き出した。


 『逃げろ——』と。


 だが一瞬の葛藤。その頃にはもう——遅かった。


 「イダッ!?」


 ルイは小さな少女飛び付かれ——全身の関節が鳴るのを感じた。


 「ギブ!ギブギブギブ!!」


 「るぅにぃ、の…体温…」


 「ちょっと!ルイ!大丈夫!?」


 「それよりあなた、一体どちら様なんですか!?」


 ルイがギブを唱えるほどの力で抱きつく少女。だが少女は更なる理解不可能混沌でもってそれに答えた。


 「ん…ミア、は、ミア。おねぇちゃん、は——?」


 「「「は——!?」」」


 えっと…ミアさん?


 「ミアさん?にぃ今すごく困惑してるんですが?久しぶりの再会なのに、今感動より困惑の方が強いんですが?」


 そう。彼女は『ミア』。俺のいとこで、小さい頃は兄妹のように遊んでいた。


 昔からポツポツ喋る感じで、たまに聞き取れないことがあるが、日常会話には困らない程度だ。


 だがなんだろう。なんか…ゴツくなってる。主に背後が。


 おっとこれでは伝わらないか。では詳しく。


 白髪の頭に、ピンク色のリボンでツインテールを結いている。身長は140センチぐらいだろうか。背には、背丈の倍はあるであろう、巨大な槌を背負っていた。


 「るうにぃ、おおきく、なった、ら、ミア、と、けっこんして、くれるって、いって、た。」


 いつの話!?それ絶対5年以上前の話ですよね!?


 それあれですよね!?小さい子特有の、『おおきくなったらぱぱとけっこんするー』っていうノリのやつですよね!?


 「えーとミアさん?にぃ誰とも結婚してないし、恋人でもないよ…?」


 その時だった。3人は今になって思い出した。ファーストインスピレーションがちょっとアレだっただけで。本来ミアは、——と。


 「——うっ…ひっ…にぃ、うそ…ついた…の…?ひっ…」


 そう。どれだけ言動がエグかろうと——精神はまだ、年相応なのだ——ッ!!


 「あー!ルイがミアちゃん泣かせたー!」


 「は!え!?ちょ!悪かったから!にぃちょっと記憶が無いだけだから!」


 困った。非常に困った。どうしよう。


 ミアをほっとくわけにはいかないけど、さすがに同意するのはまずい。なんというかその…いけない気がする!社会的に!


 「じゃあミアさん!私たちのギルドに入らない?『No.Name』っていうの。聞いたことある?」


 「ん…この、あたり、じゃ、いちばん、ゆうめい…」


 あーやっぱりそこまで広まってるかー。まぁあんだけ派手にやったからなぁ…


 「ミア、は、るうにぃ、と、いたい。だから、ぎる、ど、はいる。」


 わーお責任者そっちのけで決まってるー☆


 「じゃあこれから登録に行かないと!」


 「わかったわかった。じゃあ行くぞ。」


 

 

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理不尽に転生させられた研究者、物理を無視して無双します! @newrookie

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