孤島のしゃぼん玉

大隅 スミヲ

孤島のしゃぼん玉

 巨大な亀だった。


 その背に自分が乗っていると気づいた時は、すでに沖に出てしまった後だった。


 見渡す限りの海。どこにも陸地は見えなかった。


 空は曇っていた。

 それだけが救いだった。もし晴れていたら、日差しにやられて、脱水症状を起こしていたかもしれない。


 この亀は一体どこへと向かうのだろうか。

 亀の背中といっても、ちょっとした小さな島ぐらいの大きさがあった。

 おそらく、この背中に家一軒ぐらいであれば建てることは可能だろう。


 そんなことを呑気に考えていると、海鳥の群れが遠くにいるのが見えた。


 おそらく、その先には魚の群れがいるのだろう。

 海鳥たちはその魚の群れを狙って飛んでいるのだ。

 魚の群れがいるということは、さらに大きな魚も寄ってくる可能性があった。

 この巨大な亀も、その群れを目指して泳いでいる可能性がある。


 頼むから、潜ったりはしないでくれよ。

 そう祈るばかりだった。


 甲羅が海上に出ている分には問題はないのだが、潜られてしまうと自分は海中に放り出されることとなる。

 こんなところで、海中に放り出されればサメの餌になる以外の選択肢はないだろう。


 しばらく様子を見ながら亀の背の上を行ったり来たりしていると、少し離れたところに小さな島が見えてきた。

 この亀よりかは少し大きく、島には木々も生えている。


 うまくあの島まで亀が行ってくれれば、そちらの島に移ることが出来る。

 きっと、あの島には水もあるだろう。それを証明するかのように緑が生い茂っていた。


 願いが亀に通じたのか、亀はその島のすぐ脇まで泳いでいってくれた。

 ごつごつとした岩場ばかりの島であり、砂浜のような場所はないため、助走をつけて一気に島へと飛び移った。


 着地の際に少し足を痛めたが、島への上陸には成功した。

 これで、亀がもぐってしまったらどうしようかという心配はしなくても済む。


 島の中を探検してみたが、少しの木々が生えているだけで、あとは何もない島だった。表面はごつごつした岩のような物で出来ており、苔が生えるかのように緑が少しある程度だった。


 正直、期待外れだった。

 水は木々が蓄えていたものを少し頂戴した。

 しかし、空腹を満たすものは何もなかった。


 いつの間にか、あの亀はいなくなっていた。


 この島は孤島だった。

 周りを見渡してみたが、他に島はなく、あるのは大海原だけだった。


 時おり、地震のような揺れを感じることもあった。

 気になることは、それだけだった。


 ある日、孤島の端からしゃぼん玉のようなものが出ているのを発見した。

 これは一体何なのだろうか。

 首をかしげながらそのしゃぼん玉を見ていると、妙な胸騒ぎを覚えた。


 空を海鳥たちが覆いつくしていた。

 しゃぼん玉はいつの間にか消えていた。


 島が大きく揺れた。

 先端がゆっくりと動き、こちらに首を伸ばす。


 やっぱりか。

 自分の運の無さを呪った。


 孤島だと思って乗り移った先は、最初の亀よりも少し大きな亀の背中だったのだ。

 こうして、また亀が海の中に潜らないことを祈りながら過ごす日々を送ることとなった。いつか、陸地に辿りつくことを夢見て。

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孤島のしゃぼん玉 大隅 スミヲ @smee

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