第3話

「まだ大丈夫みたい」

「そうか」


 共同研究者は少し不満気ではある。が、仕方ない。これは決まりなのだ。この惑星に住む者があの質問にYESと答える限り、スイッチをオフには出来ない。


「この課題、思ったより時間掛かるね」

「本当だな。もうそろそろ終わるかと思ったんだが」

「しぶとい、って言ったら違うかもだけどさ、なんていうか、非現実的なんだよね」

「そうだな。くだらない争いばかりしてるし、病気は治せないし、狭いところでセコセコ生きるだけの短命な生物なのに、なんだってこう、変にプラス思考なんだろうな」


 彼らはこの『世界』を作った主。

 パチリ、とスイッチを押すだけで、このちっぽけな『世界』を終わらせることが出来る存在。

 されど、この愚かで頭の悪い生物がいつまで経ってもYESと言い続けるものだから、未だにこの退屈な観察記録をやめられずにいるのだった。


「我々がスイッチを切るのと、彼らが自ら絶滅するのとどっちが先かしらね?」

「さぁな。どっちにしろ、そう遠くはなさそうだが」

「あら、わからないわよぉ? 今までだって終わりそうで終わらなかったじゃない!」

「……だな」


 彼らが創り出したのは『世界』と、そこに生息する『生物』である。進化の過程を観察しレポートに纏める課題のためのものであるが、いかんせんダラダラと同じようなことを繰り返すこの『生物』がどうも複雑な思考回路な割に成長がない。


「また現地時間100年後ね」

「へいへい」


 2人は、宙に浮かぶ青い球体をチラッと見遣ると、静かに研究室を後にした。

 そのスイッチを押すのは、今日ではなかったようだ。


 残された青い球体は、ケースの中でゆらゆらと浮いている。


 と思って存在する者たち。

 本当は儚い命。


 滅びるのか。

 生き続けるのか。


 それはまた、100年後のお話。

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100年後も満天の星空を にわ冬莉 @niwa-touri

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