祭、猫、オッドアイ。神仙恋慕
祭
猫
オッドアイ
寂れた神社の森の中。ノラ猫達はわらわらと。そうして敷地に集まって、にゃんごろにゃんごろ歌いだす。
今日は、お祭。
それも、ノラ猫達には本来縁が無いはずの、屋台やら太鼓やら、まるで人間が楽しむような賑やかなお祭。
勿論、ただの猫達にそんな仕掛けができる訳も無い。
猫達の中には、長がいた。
猫又。その猫は皆から仙さんと呼ばれていた。仙さんは、左右の目がまるで対照的で、尻尾も二本ある不思議な猫さん。
「む…………」
仙さんは神妙な面持ちで、神社の境内の中央に座る。
「わあ!綿菓子だ!甘いやつだ!」
「秋刀魚だ!塩焼きだ!俺の大好きなやつ!」
「仙さん!今年もありがとう!ありがとう!」
「不思議な力をありがとう!」
猫達は思い思いに祭を楽しんでいる。
「……ふん」
仙さんは、境内から少し離れて、敷地の隅っこの太鼓の群れに近寄る。
「よお、威勢がいいな。同胞よ」
「仙さーん!疲れたよ!太鼓叩くの疲れたよ!俺も飯が食いたい!」
「ふん。そうしたいならいいけどよ。バチが当たるぞ。知らんからな」
「えー!」
祭は一晩。たったの一晩限りの事。仙さんは神社の境内に戻る。
「ふう」
とある白い猫が、仙さんに近寄って来た。
「あの」
「何だ?」
「ご苦労様です。毎年」
「ああ、うん」
その白い猫は、敬礼をして、仙さんの隣に座る。
白い猫は問いを投げる。
「結局、いつまでもいつまでも続けるつもりなんですか?このお祭」
「ん、んん、まあ年に一度くらいはな。こしらえてやっても良いと思うのだよ」
「いっその事月に一回とかにはしないんですか」
「しないな。それは、常、通常という規範に反する。我ら猫が、猫らしくあるべく、一年の殆どは街を駆け回る。月に一回も祭をやってしまっては、「それらしくある」という秩序からずれてしまう」
それを聞いて、白い猫は首をかしげる。
「そうですかね?猫が猫らしくある。それもまあ大事かも分かりませんけれども、仙さん、それよりもあなたが考えているのは、人間の神様の事でしょう?」
「……分かるかね」
仙さんの片方の目は、昔の飼い主の目の色だ。
「そうだなあ、いつだったかの絵本みたいに、百万回生きる……なんて事は御免だが、まあ精神が持つ限り、数百年くらいは生きようと思うのだ」
「執着が、抜けないんですよね」
仙さんの飼い主は、神社によく参拝に来ていた。
続いて、仙さんは語る。
「しかしなあ、もう俺も既に、もぬけの殻よ。抜け殻に近くなってきている」
「仙さん?」
「本来、俺が愛するべきは飼い主だ。しかし、今に至って俺が執着を向けているのは、その飼い主と関連があった別の事項である。即ち神社の神だ。目の色も、俺も時々鏡を見たりするが、段々色が変わってきた気がする。それにもう、本当に飼い主がこんな目の色だったかというのが正確に記憶に無い」
祭とは、主旨から外れて盛り上がるもの。
白い猫は進言をする。
「結果オーライそれでよし……っていう事にしたらどうですかね?飼い主様に先立たれて、その後仙さんはこうやって、今ノラ達を楽しませている」
「まあなあ」
「……楽しくない、ですか?ただ傍観の仙さんは」
「……いや」
――――――
「うーん」
仙さんは、答えが見つからない。
――――――
「ねえ、仙さん」
「何だ?」
「私と、子をなしてみませんか?」
「あ?」
「分かるまで。仙さんの落としどころが見つかるまで。あても無い空白のお祭を、続けましょう。娘息子も巻き込んで。代を重ねて、回廊の果てに、仙さんの飼い主は優しかったんだよって。こんなに素敵であんな人なんだよって。まるで神様を祀るみたいに、子供達に語れるように。いかがです?私、仙さんに見合うくらいには家事ができるんですよ?」
え?
「家事?」
「私も、そろそろ妖になりそうな感じがするんです。ねえ、寂しいじゃないですか。仙さん」
かさばった短編の羅列 キリキリさん @rinnsyann
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