第一ノ六 伝えずとも伝わっているもの

「いっつもこんなに素直だと、嬉しいんだけどなー」


 宝新正愛ほうじんまさちかの嬉々とした声に、深夜ふかやさきは我に返り、真っ赤になりながら体を離した。


「あーあ、離れちまった」


 正愛まさちかはニヤニヤと笑いつつも、わざとらしく眉を下げた。


「い、色々あって混乱していただけだからっ」


「そういうことにしといてやるか。——なぁ、咲」


 正愛まさちかは、ふと真剣な顔をして、夜空を見上げた。

 空には、の咲が、正愛まさちかを失った日のような、満月だった。


「何? お従兄にいちゃん」


「こんな世界になったから言うわけじゃねぇけど。言わなくても伝わっていたと思うけど」


「うん……」


「ずっと、好きだぜ」


 正愛まさちかは熱っぽい瞳を咲に向けた。

 その視線は、小さな従兄妹を思う、従兄あにの目ではなく、一人の女性を想う、男のものだった。


 そんな視線を向けられた咲は、


「——うん。わかっていた。……私も、ずっとお従兄ちゃんが好き」


 すぐ拗ねてしまう従兄妹ではなく、一人の男性を想う、恥ずかしげだけど、しっかりと相手を見据える、そんな視線を送った。


「さーてと! 咲のラブも注入できたし! 武器も手に入ったし! さっさと化け物花を倒しに行くかー!」


 正愛まさちかは少し頬を紅潮させ、恥ずかしさを隠すように伸びをすると、の咲がメールで送ってくれた、黒い木刀ようなものを右手で握り、


「咲」


 左手を咲に差し出した。


「——うん」


 咲は右手で正愛まさちかの左手を握り、左手で黒い木刀のようなものを掴んだ。


「んじゃ、行きますか」


 二人は手を繋いだまま走り出した。


「早くイチャイチャしてぇんだから! 邪魔すんじゃねー!」


 正愛まさちかは右側のくろ浜茄子ハマナスを斬っていき、


「……イチャイチャしたいの?」


 咲は左側のくろ浜茄子ハマナスを斬っていく。


「したいさー! もうおっさんだぜー? 体もアソコも元気な内に、色々してぇの! 俺は!」


「——お従兄ちゃんのエッチ」







 世界線一 終





 — — — —



 あとがき。


 正愛まさちかが生きている世界線。終わりです。


 次は、咲が願ったが優しい世界線です。


 ……みんなが? 親戚の奴らも? 書けるの?


 くずだからこその親戚なのに!? うわー! 痒くなってきたー! 誰か背中を掻いてくださーい!

 

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【本編完結】咲き終わった世界で。 冥沈導 @michishirube

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