本作、冒頭から辛いシーンが続きます。作者さまはとても優しいかただから、ちゃんと断りを入れていただいていますが、いろいろ、辛い。そのあと、そうしたら幸せになるのかなといえば、やっぱりしばらく、別の種類の、めげてしまいそうな場面。
でも、わたしはなんだか、この絶望的な世界が、居心地がいいのです。たぶん、高熱で風邪薬をのんだ夜に、さっききいたおかあさんの声をねむりのなかで魔物の呼び声に変換するような、まくらもとのくまさんが顎に牙をひからせるような、そうして最後に作者さまのあったかいうでのなかに落ちていくような、そんな安心を感じているからだと思います。
ものがたりは昏い影を負って、ゆらり、ゆれます。
絶望は果てしない。
でも、賢い主人公は、希望を失わない。
いきることを、あきらめない。
意思と工夫で、生命をつないでいく。
不思議であったかい、仲間と。
ゆらり揺れる、魅力的な悪夢。
ぜひ、お楽しみください。