第一ノ五 間違えたかなぁ?

「……私?」


『そう、私はの私!』


 電話を受け取った深夜ふかやさきは、混乱する頭で必死に考えていた。

 とはどこなのか。


「それはどういう……」


『わかるように説明したいけど! 時間がなさそうなの! だから、端的に聞いて言うね! 正愛まさちか従兄にいちゃんは、人間なんだよね!?』


「うん……」


 肯定しつつ、咲は疑問に思った。とは、どういうことなのか、と。


『じゃあ! 正愛まさちか従兄にいちゃんを! 人間の正愛まさちか従兄にいちゃんを! 守って! 私は忘れていた! 思い出せなかった! シトがお従兄にいちゃんだとわかるまで!』


「シトって……?」


『いいの! あなたはわからなくて! でもね! 私ならこれだけは覚えておいて!』


「うん……」


『お従兄にいちゃんは! 正愛まさちか従兄にいちゃんは! 私のせいで殺されたの!』


「え……」


『でも生きてた! ずっと傍にいてくれた! ——人間じゃなくなっても! だから! 正愛まさちか従兄にいちゃんを好きな気持ちを捨てないで!』


「人間じゃないって……」


【ジャマ……】


「え……?」


【邪魔シナイデホシイナァアアアアアアアアアァー! フカヤサキィイィイ゛イ゛ィ゛!】


 ラジオから聞こえてきた、あの不気味な声が携帯から響き渡った。


『もうダメか! 最後にこれだけ送るね! 後でメールを見て!』


『咲! そっちに行ったぞ!』


『わかった! じゃあね! どこにいても! どんな世界になっても! 生きよう!』


 そこで通話は切れた。


「…………」


 咲はまだ呆然とする中、メールのアイコンに①と、赤くなっているのを確認した。タップして開くと、『受信   1』となっていた。理解が追いつかないまま開くと、


『●深夜咲

  これを使って! これなら通じる! 弱点は根!』


 と、表示された。


「…………」


 普通であれば自分から送られてきたメールなど、不信で開かず削除する。だが、咲は確かに己と会話した、の私だという咲と。

 その確固たるものがあったため、咲は恐れずタップしてメールを開いた。


「わっ! え……? 髪?」


 携帯から、二本の黒い髪がすっと現れた。

 咄嗟に掴んだ咲は、しばらく悩んだ後、正愛まさちかが刀を振っていたのを思い出し、何気なく髪を振ってみた。すると、


「大きくなった……」


 鋼鉄の木刀のようなものに、形を変えた。


「…………」


 親戚の家にあった刀では、再生してしまうと正愛まさちかは言っていた。の自分はこれなら通じるとメールをくれた。


 絶望を上塗りしたような世界。


 信じられるのは、自分と愛する正愛まさちかだけ。


 ならば、信じよう、の自分を。


 最愛の人を、守るために。


「ふあぁーあ。わりぃな咲、いつの間にか寝ちまってた」


 宝新ほうじん正愛まさちかが欠伸をしながら体を起こした。


「…………」



『じゃあ! 正愛まさちか従兄にいちゃんを! 人間の正愛まさちか従兄にいちゃんを! 守って! 私は忘れていた! 思い出せなかった! シトがお従兄にいちゃんだとわかるまで!』



「…………」


「咲? どうした?」



『お従兄にいちゃんは! こっちの正愛まさちか従兄にいちゃんは! 私のせいで殺されたの!』



「…………」


「咲?」



『でも生きてた! ずっと傍にいてくれた! ——人間じゃなくなっても! だから! 正愛まさちか従兄にいちゃんを好きな気持ちを捨てないで!』



「…………」


 咲は、の自分の言葉を思い出し、正愛まさちかを見つめると、無性に悲しく愛しくなり、気がついたら、


「うおっ!?」


 正愛まさちかに抱きついていた。


「どうしたよ、いきなり」


 咲は首をぶんぶんと横に振り、腕の力を強めた。


 人間の正愛まさちかは、ここにいると、確かめるように。


「ははーん。さてはようやく、俺の大人の男の魅力に気づいたなー?」


 また拗ねた返事が来ると思っていた正愛まさちかは、


「うん……」


 素直に返され、


「そ、そうか。そう、かー」


 頬を赤くし、少ししどろもどろになった。だが、すぐに、愛しい女の子を想う顔になり、


「ま、俺は、咲が苺パンツの時から、美人の魅力を感じていたけどなー」


 と、咲を抱きしめた。


「またその話をする……」


「ははっ」





















 サザッ、ザーッ、ガガッ。


【コロス、ジュン、バン、間違えたかなぁ? フカヤ、サキ、ヲ、サキニ、コロシテ、ハイアガレ、ナク、シテ、ヤレバ、ヨカッタ、カナァ? ソウシタラ、キミハ、シトノ、ママダッタ、ヨネ?】

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