第一ノ四 深夜咲

 ダメ……、繋がらない……。



 ……の私っ、聞こえる!?



 もしかしたら! 本当かもしれない!



 お従兄にいちゃんは……、正愛まさちか従兄にいちゃんは誰かに生かされているって!





⁂⁂⁂⁂





「…………」


 深夜ふかやさきは、思考を巡らせていた。


 あの声の主は誰なのか。


 従兄妹で、愛している宝新正愛ほうじんまさちかの“今”は、普通で当然じゃないのか。


 考えても考えても、答えは出ない。だが、咲は考えずにはいられなかった。


 そんな咲の思考を止めたのは、


「だぁー! ダメだ! あいつら斬っても斬っても再生しやがる!」


 空気を読めないとも取れる、緊張感のない正愛まさちかの声だった。


「——……」


 ふっと肩の力が抜けた咲は、戻ってきた正愛まさちかに声をかけた。


「やっぱり、最初に咲いたくろ浜茄子ハマナスが本体なのかな?」


「かもしんねぇ。あーあ、無駄な体力を使っちまったぜ」


「——……」


 刀の柄で肩を叩いている正愛まさちかを見ながら、咲はどこかホッとしていた。

 こんな世界でも、こんな状況でも、十五も歳が離れていても、それを感じさせない、正愛まさちかの子供っぽさと明るさに。


「情報が少ないっつーか、なさすぎなんだよな。けど、携帯は圏外、ラジオはクソ。どうしろっつーんだ」


「…………」


 咲も制服のスカートから赤いスマートフォンを取り出し見てみたが、やはり圏外。小さくため息を吐き、またポケットに仕舞った。


「ふあ……」


 咲は口を手で隠しながら小さく欠伸をした。


「眠くなったか? 咲ちゃん」


 それを見て正愛まさちかはからかうように笑った。


「また子供扱いする……」


「ははっ。まぁ、色んな事がありすぎたからな。ここは胸糞悪いが、家らしい家だ、寝とけ、俺が見張ってるから」


「お従兄ちゃんは疲れてないの?」


「お前を守るためなら疲れ知らずだ」


「——……」


 咲は顔が熱くなるのを感じた。

 自分より子供っぽい所がたくさんあるのに、ふっと見せる正愛まさちかの大人の魅力に、振り回されている気がすると、思いながら。


「じゃあ、しばらくしたら起こしてね。交代で寝よう」


「咲ちゃんは真面目だなー。ま、了解」


 正愛まさちかが背を向けたのを見ると、咲はスニーカーを脱ぎ、縁側で膝を抱えるように座った。





⁂⁂⁂⁂





「ん……?」


 咲はポケットの振動で目が覚めた。

 スカートのポケットが震え光っていた。不思議に思いながらも取り出すと、


「え……?」


 画面に出た名前に目を見張った。

















 着信画面には、『深夜ふかやさき』と出ていた。






 夢かと思い、頬をつねったが、痛みはある。辺りを見渡せば、くろ浜茄子ハマナスだらけ。隣にはいつの間にか刀を抱えたまま眠っている正愛まさちかがいた。

 それらの全てが、ここは現実だと、咲に言っていた。


「…………」


 咲は恐る恐る画面をスライドさせ、応答した。


『あ! やっと繋がった!』


 聞こえてきたのは、紛れもないの声だった。





— — — —



 あとがき。


 並行世界って、決して交わる事はないらしいんですよ。


 ……そんなん、つまらんやん? 交わった方が面白いやん? 素敵やん?


 というわけで、正愛まさちかのために、咲と咲が繋がりました。

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