第一ノ三 ね?

「この町だけなのかな? こんな状態は?」


 視線を上げ、深夜ふかやさき宝新ほうじん正愛まさちかを見た。


「情報がほしいとこだな。携帯は……やっぱ圏外か」


 正愛まさちかはジーンズのポケットから黒いスマートフォンを取り出すと、電波の状態を確認した。繋がっていない事がわかると、またポケットに仕舞い、刀を肩にかけ、カシャカシャと音を立てながら、辺りを見渡していく。


「そうだ、思い出したぜ。お前の部屋……、違う。お前の部屋には相応しくない物置きみたいなとこに、確か」


 ギシギシと古い廊下を歩いて正愛まさちかは、かつて咲の部屋とされていた部屋に入った。


 そこは掃除が行き届いていないどころか、されていなく、湿って蜘蛛の巣や埃だらけの寝室とは呼べない畳部屋。

 その押し入れを正愛まさちかは勢いよく開き覗いた。


「お? あったあった」


 正愛まさちかは押し入れの中から、レトロな黒いラジオを取り出した。


「動いてくれよー」


 それを畳の上に置くと、つまみを回し始めた。ザザッ、ジジッ、という音ばかりで、何かが聞こえてくる気配はない。


「ダメか」


 諦めて、部屋を出ようとした時、


【マ……、マサ、チカ、ホウジンマサチカ】


「お従兄にいちゃん!」


「——……」


 ラジオから、機械音のようで、くぐもった響くような甲高い声が、正愛まさちかの名を呼んだ。

 呼ばれたことで、正愛まさちかは足を止め、振り返る。


【キミ、キミ、ハ、ボクタチ、ニ、ワレワレ、ニ、イカサレテ、イル】


「…………」


 正愛まさちかはまた眉をひそめた。


【キミ、ノ、、ハ、ワレワレ、ニヨル、モノ、ダ】


「…………」


 正愛まさちかの眉間の皺は深くなっていく。


【ソノ、コトニ、カンシャ、シ、イマヲ——】


 不気味な声がまだ話している途中で、正愛まさちかはラジオを持ち上げ、部屋の入り口まで行くと、


「ふんっ!」


 庭の方へ殴り飛ばした。


「なっ、何してるのお従兄にいちゃん!」


「だってよ、気持ちわりぃだろ。それに、生かされているだぁ? はっ、俺は、俺の意思で、生きているっつーの、咲といるためにな」


「でも、大事な情報だったかもしれないのに……」


「大事な情報でも、あんな気持ち悪い奴からのはいらん。あー、なんか無性に腹が立ってきた。ちょっとそこらの化け物花を狩ってくんわ」


 そう言って背を向け歩き出した正愛まさちかの頭に、咲は、


「え……」


 白いハットを被っているのを見た。


 だが、目を擦り、瞬きを繰り返すと、いつもの黒い短髪だった。


(……疲れていたのかな)


 咲は、そう思おうとしたが、何故かあのラジオの言葉が引っかかっていた。



【キミ、キミ、ハ、ボクタチ、ニ、ワレワレ、ニ、イカサレテ、イル】 



 “生かされている”。



 確かに、愛する人は、生きている。でも、それが、不安だった。

 もし、本当に、により、正愛まさちかは“生かされている”のだとしたら。いつか、その者により、愛する人は殺害されるのではないか、と。







      













——、ノ、イマ、ヲ、シッカリ、ト、カミ、シメ、ルンダ。ね? 宝新ほうじん正愛まさちかくん——




— — — —



 あとがき。


 神なのか、何なのか。


 あ、表紙的なものを作ってみました。

 こちらよりよければ↓(近況ノートに飛びます)

https://kakuyomu.jp/users/michishirube/news/16817330661130612972

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