第一ノニ 優しい世界で
「
「あっぶね! もう少しで俺の顔が串刺しになるとこだった!」
「おーおー、悔しがって蔓がウネウネしてらぁ。へへっ、ざまぁみろ! バーカバーカ!」
「……お
「何だー?」
振り向いた
「私より子供っぽいとこ、直した方がいいよ」
「
背後から蔓がしなり、風を切る音が聞こえ、
「時と場合によるよ」
「どんな時でも場合でも、俺を好きでいてくれると思ったんだけどなー、はっ! よっ!」
蔓は避けられ続けた事で腹を立てかのように、
「キリがねぇな」
避けても、舞い散る花びらに触れ、
「どうする咲。身を隠せる場所はー……、ねぇだろうが、探して作戦会議するか?」
「……あの人たちの家に戻る」
「……は?」
「どうなったか気になるから」
咲は真っ直ぐ、親戚の家を見ていた。絶望の屋敷を。それを見て、
「咲ちゃんは優しいからなー。一度言ったら聞かないし。
二人は並んで走り出した。
「ちゃん付けしないで、私、高校生だよ」
「んー? そうだったかー? 俺にとってはずーっと苺パンツの可愛い咲ちゃんのままだぞー?」
「……もう穿いてないから」
咲が少し拗ねたような声を出すと、
「ははっ、
二人があの家に戻ってくると、
「咲! 戻ってくるのが遅いじゃないか! 早く! 早く助けなさい!」
唯一の生き残りらしい高級な白地に赤い牡丹柄の着物を着た家主の老女が、古い刀を振り回しながら振り返り、絶叫した。
老女の周りには、家族だったであろう、
「…………」
酷い扱いに慣れているせいか、咲からは怒りも悲しみも感じないが、
「——」
「何ボサっと突っ立ってんだい! 早く助——」
老女は言葉を最後まで紡げなかった。助けを求めた口から
「ちっ!」
「がああああぁっ!」
口から貫いた。
「ままままままままままままままままままままさままままままままままままままままままままままままままままままままままマサチカァー!」
かつて老女だった者は、
「こんなもんじゃねぇからな、お前らが咲にやってきた事は」
咲は、頭を少しだけ下げ目を閉じ、
「……次は、次こそは、優しい世界で会えたらいいですね」
かつて老女だった黒い液状のものを祈った。
— — — —
あとがき。
安心してください、穿いてないですよ、ということで(笑)
えー、あっちの咲も、こっちの咲も、願いは一つ。“優しい世界”。
次回、第一話のあの謎の声がまた出てきます。
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