第5話 ユマさんとぺぇくんと姉妹

 後日、ボクたちはユカさんとユイちゃんを喫茶店に呼び出す。



 事務所に入ることは、結局一旦断ることにしたのだ。


 二人はガッカリしつつも、ある程度予想はしていたみたい。

 

 

「ホントに嬉しいよ。頼ってくれて。二人のことも大好き。でもさ、わたしが入ったら、今度は二人に直接迷惑かけちゃうんじゃないかって」


「迷惑だなんて! 私もユイも、あなたを迷惑な女だなんて思ったことない! 思っていたら、二人を事務所になんて誘わないわ!」 


「ありがとう。でもね、わたしはぺぇくんと一緒にやりたい。二人だけで、どこまでもマイペースで」


 やはり事務所に入ると、配信の色が多少変わってしまう。

 二人だけでという時間も、少なくなるだろう。


「わかった。じゃあ、三姉妹で再デビューはなしね。一平くん、お茶ごちそうさま。ユマ、話せてよかった」


 

「あ、あの!」



 立ち上がろうとしたユカさんたちを、ボクは呼び止めた。


  

「で、でも、事務所に入れていただけると、助かります!」


「ぺぇくん?」


 あっけにとられた顔で、ユマさんがボクを見る。

  

「だって、このまま三姉妹に亀裂が入ったままじゃ、つらいでしょ? ボクはそこまでして、ユマさんを独占したくないよ。だって、三人は家族なんだよ?」


 ユマさんはボクみたいに、家を勘当されてVデビューしたわけじゃない。

 理解のある家に生まれた。

 

 だからこそ、離れ離れになったままじゃいけない。

 家族がサポートすると言うなら、甘えたっていいじゃないか。



 ボクは、家族の暖かさを知らずに育った。


 だから、ユマさんは三姉妹という形から身を引こうとしてくれている。

 

 ボクのせいで、ユマさんは家族を捨てちゃいけない。

  

「えっと、ユマさんはボクと配信します。ただし、事務所には、入れていただきたいかなと。虫のいい話ですが」


「いいのよ。そうなると思っていたから」


「すいません」


「まあまあ」


 ボクはユマさんと、契約書にサインをする。


 利益の分配や配信スケジュール、提供案件を受けるかどうかなどは、おいおい相談になるという。


 ユカさんはユイちゃんの管理をしつつ、ユマさんのマネージメントも引き受けてくれるらしい。


「ありがとう。二人が入ってくれると助かるわ。これで、私は裏方に専念できる」


「引退なさるので?」


「裏方のほうが性に合ってるってわかっちゃったから」


 ユカさんがウインクする。


 こうして、ボクたちはどうにかV配信者としてそれなりに稼ぎが出そうだ。


「ありがとうぺぇくん」


 二人を見送った後、ユマさんは礼を言う。

 

「どういたしまして」


「でもね、実はわたし、姉と妹にウソついちゃった」


 どういうわけか、ユマさんが顔を赤くしていた。


 ユマさんがウソをつくなんて。


「実はね、わたしたちさ、もうふたりじゃないの」


 ユマさんが、おヘソの下ををさする。


「これからもよろしくね、ぺぇパパくん」


「こちらこそ、ユマ……ママさん」



(おしまい)

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ユマさんとぺぇくんの年末年始 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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