小腹を満たしにまいりましょう

「クライアントさんからお預かりしたものもお返ししましたことですし、何かいただきませんか、沙綺羅さん」

「宵っ張りですからね、お酉さんは、出店にぎわってますね」

「はい、小腹も空いてきましたし、魅力的なお夜食楽しみです」


 真乎は張り子の招き猫が白、黒、金色と3体くくりつけられている熊手を抱えている。ハートが付いているのは沙綺羅が持っている。


「それにしても、暫庫屋しばらくや、やけにすんなりと引き取りましたね」

「ボロボロトンさんのこと問い詰めましたら、押しつけて始末したかったのだとあっさり認めました。手に入れた経緯にもうしろめたいことがあったのでしょう」

「そんなところですね」

「そんなところでしょう」


 沙綺羅は熊手を模したべっこう飴を買うと真乎に差し出した。


「はい、どうぞ。おつかれさまです。厄除けに相談室に飾ってください」

「きれな飴さんですね」


 真乎はうれしそうに受け取った。


「そういえば、酉の市に出そうなあやかしっていますか」

「そうですね、酉の市に出そうなのは、白容裔しろうねりさんでしょうか」

「シロウネリ?」

「古い布巾が化けたものです」

「白くてくねくねうねってるってことですか。で、酉の市との関係は」

「芋頭、ええっと八頭やつがしらのことですが、それを食べるのが大好きな僧都さんが、あまり快く思ってらっしゃらない同業者さんにつけたあだ名がシロウネリ。聖なる職業の方を妖怪の名でお呼びするとは、僧都さんもなかなかなものです」

「芋頭、そういえば、酉の市にはつきものですね」

「はい。頭をいただいて頂きに立ちましょう、というお気持ちの表れです」

「シロウネリ、現れますかね」

「お会いしたいですか、沙綺羅さん」

「いえ、遠慮しておきます、真乎さん」

「ああ、よいにおいです、おなかが鳴ってしまいます」

「おでんですね、屋台が出てるみたいですよ」

「おでんだねに芋頭も浮いてることでしょう」

「いいですね、食べたいです」

「いざ、まいりましょう」


 二人が紛れたにぎやかな宵闇に、おでんの温かなにおいが漂っていた。





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掬迷師 翠埜真乎のヒザチグラ 美木間 @mikoma

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