色褪せてしまった大切なもの

日々、なにかが抜け落ちていく感覚。
降り注ぐ雨。その一粒たちに、まるで少しずつ削がれていくような。
もしかすると生きている限り、なにかを失い続けているのかもしれない。
そんな漠然とした虚無感に胸を打たれた作品でした。

冒頭からの巧みな掴みと、繰り返されるフレーズ。
わかってはいるようで、それを文字にされると心にくるものがありますね。
フィクションでありながら、その光景の書き起こし方や表現の仕方でこうも現実味を帯びるものなのかと。忘れてしまったものや蓋をした感情に、ぐいぐい迫る言葉の奔流はまさに圧巻でした。雰囲気で物語を進めるのは邪道という意見もありますが、そんなことはどうでもよくなるような作品でした。逆に、雰囲気だけだからこそ伝わるものがあるというか。

遠い過去に忘れてしまったもの。本作のどこか暴力的で幻想的な世界は、貴方の心の奥底に眠るそれを呼び覚ましてくれることでしょう。