9.帰途
鳥居を抜けたら、もう夕闇が迫っていた。
「交通規制を解除します」というアナウンスが聞こえる。
「遅くなっちゃったね」
「仕方ないよ、混んでたもん」
帰りは参道わきのお店が並んだ道を歩く。
みんな疲れていたし暗くなってきていたから、お店に寄ることもなく速足で歩いた。
「そう言えばさ、この辺、おいしいたい焼きのお店がなかった?」と琴子。
「あったあった!」と大樹が言い、
「さっきの角のところを右に入ったところだよ」と聡が落ち着いて言う。
「あたし、たい焼き食べたかったなあ」
琴子が残念そうに言う。
「戻る?」とあたしが言うと、聡が「もう閉まってるんじゃない?」と言った。
それはそうかも。店じまいを始めている店もあった。
「じゃあさ、またみんなで来ようよ、大樹、幹事、よろ!」
たい焼きの約束ひとつで、なんだかとても幸せな気分になった。
鎌倉駅に着いて、みんなで電車を待つ。
……鳩鈴守、どこにつけようかな。毎日持つものがいい。
考えながらスマホを見ていたら、星からLINEが来た。
――空いている日、教えて
写真が添付されていて、それはさっきの銀色の鳩鈴守が定期入れにつけられている画像だった。
あたしも、定期入れにつける!
金色の鳩鈴守をつけて、写真を撮る。
「かわいいね、それ」
横にいた琴子が金色の鳩鈴守を見て言う。
「うん」
琴子には今度ちゃんと話そう。
いまのこの気持ちを。
星に写真をつけてLINEを返す。
――始業式までは暇だよ!
既読がすぐについたと思ったところで、電車がホームに入って来た。
行きと同じように、なんとなく男女に分かれて座る。
夕暮れの中を電車は走っていく。行きに待ち合わせをした駅に向かって。
かすかな鈴の音がした。
それは本当に微かな音で、甘く切なく、優しく、こころに響いた。
☆☆☆
続編書きました。
星視点の物語です。
「銀色の鳩 ――金色の鳩②」
https://kakuyomu.jp/works/16817330651542989552
よろしくお願いいたします。
金色の鳩 西しまこ @nishi-shima
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