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「上の考えてることは相変わらずよくわからん。なんだってこんな趣味の悪いことを?」


 ロングコートを着た長身の男が、木偶人形のように地面に座る男の死体を触りながら呟いた。

 同情的な言葉に反して、その顔は気味悪く笑っている。


「品位について語るか、異常性愛者パラフィリアの君が」


 男の後ろに立つ老人が言った。

 白い髪に髭、白衣を着た彼は全身が雪のように真っ白だった。


「ははっ、俺のは至って健全だ。こんな糞みたいなことは絶対にしない。だって、勿体ないからな」


 言ってへらへらと笑う。白髪の老人はギラリと鋭い眼を向ける。おーこわいこわい、と言いながらも長身の男は死体遊びを止めない。


「なあ、どうなんだ?何が楽しくてこんなことしてんだ?誰の趣味だ?教えてくれよ、話してみたいんだ」


「・・・貴様に話すことなど、何もない」


「・・・そうかいそうかい」


 男が死体の腕を落とす。血だまりに落ちて、ぴちゃりと水音がする。

 まるで興味が無くなったおもちゃを捨てる幼児のような手ぶりだった。

 スッと立ち上がると、威圧的に老人を見下ろす。


「言えよ。執行局局長としての命令だ」


「・・・私が臆するとでも?内側の役職名なんぞに」


「さあ?だが、名前ってのは意味があるんだ。それに相応しいから、授かってるんだよ。わかる?」


「・・・」


「・・・」


「・・・大義のためだ」


「はぁー、大義ねぇ・・。俺は手前の快楽が一番だからよくわからないが──」


 長身の男は流し目で死体を見る。地面で潰れるそれはピクリとも動かない。


「人を進化させるってのは、そんなに大事なことかね?」


「・・・そうでなくては、困る」


「はっは!!困る、困るときたか!!ま、そりゃそうだわな!!もう一体、何人失敗したか分からねぇもんな!!はっははは!!!」


 男は高らかに笑って部屋から出ていく。

 すれ違う一瞬、老人にたった一言だけを残して。

 そして部屋は、静謐せいひつで満ちる。


「・・・」


「所長。回収班、到着しました」


「・・・ああ。後は頼んだ」


 所長、と呼ばれる老人も、血まみれの部屋を後にする。


 彼の頭の中では男の言葉が反響していた。


 ──百人救おうが、千人救おうが、人殺しは人殺しだ。


「・・・底意地の悪い」


 足音は空虚に響いた。

 まるで何かに追われているようだった。

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囚人B Goat @Goat_20XX

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