6


「・・・!」


 ひんやりとした感触で眼を覚ます。自分は今、鉄の床に伏している。


「・・・っが!!」


 意識が覚醒するにつれて体中が痛いことに気が付く。

 気絶しそうな痛みに耐えながら、どうにか上体を起こす。

 まあ、とりあえずは、死んでいないらしい。


「ここは・・・?」


 地図上では機関室となっているが、まわりにある設備は明らかにその名称から連想されるものとはかけ離れている。

 これは──。


「データサーバーか・・・」


 この国を管理統制するシステム、その一端を担うサーバールーム。

 それがこんなところにあるとは。


「・・・!」


 サーバーに意識をアクセスさせる。途端に国中のあらゆる情報が一斉に露わになる。

 詳細な個人情報、行政、医療、土地や権利に関する情報。

 そして、国家機密情報。


「なんだよ、これ・・」


 超人類計画、と銘打たれたファイル。

 そこには、この国の真の姿が書かれていた。

 人体実験、兵器転用、人身売買・・・。

 これが事実だとするならば、この国の国民は皆、囚われている。


 国家という監獄に。

 国家という檻の中に。


「・・・っ!ぐっ、あああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然、脳が燃えているような激痛に襲われる。


「ぁぁああぁっ・・!!」


 痛みに全てを支配される中、奇妙な感覚が頭の端っこで生まれ始めていた。

 混ざる。混ざるまざるマザル。

 レイとロイが混ざっていく感覚。

 俺は僕で、お前、は、俺で。君はワタシ?あなたは、ダレ?


「っおぉぉぉぁぁぁああぁ・・・」


 二つの意識が統合してゆく。

 自己の、自我の境目が曖昧になり、二つ分の世界が脳内に押し込まれる。

 一つの情報が二つの意識の間を無限に反復して増幅する。鼓動の音が、揺れが、増えて強くなる。胸が膨張して破裂する錯覚に襲われる。

 こうなってしまえば五感は、もはや毒だ。

 思考が果てしなく加速する。右足を一歩踏み出すという命令は重複し、不可能なタスクを実行するために筋肉や骨は弾けて砕ける。

 痛みはない。痛みという情報が脳に届かない。感覚が渋滞して詰まってしまっている。

 数秒前を感じきることが出来ない。

 体中がありえないほどの熱を持っているのがわかる。

 鼻や目や、ありとあらゆる穴から止めどなく血が流れる。


「は、ハははハハはハ!?!?」


 グツグツと溶けて、流れていってしまう。

 過去が記憶が現実と混ざって弾けて歪んで霞む。

 言葉と思考が、区別できない。



「幸せな家族だったと思っ」ていた、それはずっとつづくもの

「だとおもっていたのに。とう」さんも、かあさんも、ぼくのこと

「をあいしてなかっ」たから、おれはでていかなきゃ

「いけなくなった。おとなのひとが」

 すごいちからでひっぱったのがいたかった。おかねでかった

「ぼくたちだかぁら、またおかねで」うることにしたの?そんなに

「おかねがほしいですか?そんなにめいよがほしかったの?」

 わたし、たちにはわからないや。



「・・・あ」


 やがて、糸が切れたように動きが止まる。

 彼らはお互いの存在を食い合い、侵し合い、やがて何者でもない、欠測データに成り果てる。


 ──男の中には誰もいなくなってしまった。

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