第6話 魔法に囚われて

 抱きしめていた〝恋〟の感情は風間かざまくんが脚本に起こす言葉によってどんどん膨らんでいた。


 一言で言うとまるで魔法だ。

 風間くんが作る文字列からいい影響を受けた私は、脚本原案が思うように書けたり、原案をよりよくするアイディアが溢れた。彼の考えを受けて180°物の見方が変わった気がする。


 でも、デメリットも大きかった。

 風間くんの目を見ることは今までも恥ずかしくてできなかったけれど、それまで以上に風間くんの顔をうまく見れなくなっていた。風間くんの魅力に触れる度恋の自覚に溺れて、苦しさが胸を鷲掴みにする。


 風間くんならどんな言葉を選ぶかな、なんて考えたらキリがなくて、ついには必死に抱えて隠してきた〝好き〟という感情が日常にまぎれていた。自動販売機で選ぶ飲み物も自然とコーラへ手が伸びて、授業中のあくびも彼の物が移るようになったから。



『たった一つの私の恋が憎い人から生まれるなんて……知らずに逢うのが早すぎて知った時にはもう遅い』



 ジュリエットのセリフの一つ。風間くんへのこの感情が苦しくて辛くて、憎くなってしまった今、好きと吐き出してしまいたいくらい体内に想いが飽和している。

 言葉にしてしまったら楽になれるのだろうか。憎き感情を抱いてロミオとジュリエットのように恋に生きることはできるのだろうか……。



「好き」



 我慢なんてできなかった。

 誰もいない部屋でそうつぶやいてしまったのは、私が主人公のこの日常ものがたりに、ハッピーエンドのロミオとジュリエットを重ねているからだろう。


 ロミオは自分の国を滅ぼして、名を捨て対立した家庭としてではなく一般人としてジュリエットに近づき、〝ロミオ〟と気づいてもらうために好きと伝える、片想いで両想いの物語。


 その物語に私自身を重ねることで、私もこの想いもどこかで風間くんの想いと重なるんじゃないかって考えてしまった。

 もし、私も風間くんと同じ魔法が使えて、脚本制作の間に私のことを思ってくれたらって――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る