第2話 甘くして、誤魔化して
カフェの中に入って、
「
「ブラックも飲めますけど基本砂糖入れますよ」
風間くんが「そうなんだ!」と言いながらコーラーを口に流し込む。
クラスの誰かと一緒にカフェに入ってこうやってお話するだけで浮き足立って、私の心臓がバクバクと動いている。
「綺麗だよね、河合さんの姿勢」
「え?」
「本読んでる時もそうだけど、いつもピンッと背筋が立っててその綺麗さに、教室の中で河合さんだけ別世界にいるみたいだなっていつも思うよ」
頬を少しあげた風間くんの言葉に私がどんな顔をしていたか分からないけど「あ、もちろん、いい意味」と後付けの言葉から私はいい顔はしてなかったのだと思う。
「あ、うん。自覚なかったからビックリしちゃって──」
「そっかそっか。でも、ずっと俺にはこう見えてた。
まるでドラマや絵の中の1番いいところを切り取ったみたいだなって」
反応に困った私は言葉を探すようにアイスコーヒーを口に入れる。
「ごめん、ずっと見てたなんて嫌だよね。
でも河合さんの姿が落ち着くっていうか、こう、日常風景の中で安心する景色なんだ!」
ガムシロップを入れる前のどストレートな澄んだ味のコーヒー。風間くんの言葉もそれに似ていて、恥ずかしかったけど、嫌な気分ではなかった。
私は「そう、なんだ」と返事をする。
「だからずっと話しかけてみたかったけど話しかけるタイミングがなくて先延ばしにしてた。
でもこの間、そんな日常風景に衝撃が走ったんだ」
物語の前置きのようなその言葉に、何か変わったことでもしたか、と最近の私の行動を振り返る。
「2週間前かな。河合さんが読んでた『満月の夜に』って本を見た途端、河合さんをもっと知りたいって、絶対話しかけようって思ったんだよね」
「好きな本なの?」
「うん、お父さんが書いた本だから」
予想外の言葉に私は「え!」と少し大きな声が漏れた。
「風間くんのお父さんって小説家だったんだね。あんな凄い作品を……」
「そう、自慢の父なんだ!
読んでくれたのが嬉しくてそれで話したくて。話せてよかったよ!」
そうクシャッと笑う風間くんの姿に私の胸はぎゅっと甘くなって頬に熱が集まる。逃げるようにアイスコーヒーを流し込むと、さっきより苦味が強くなった気がした。
私は隣にあったガムシロップを開けてコーヒーに混ぜる。透明な液体がとろりと混ざる様子にいつもならこんなこと思わないのに……。
まるで今の私の心、原因不明の甘い感情が入り込んできた心みたいだと思ってしまったのだ。
そしてそれを〝気のせい〟と蓋をするように、甘くなったアイスコーヒーで熱を帯びる心も体も誤魔化した。
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